この本は目に見えない生き物、微生物に着目した本だ。
微生物は偶然の進化でさまざまな生存戦略を獲得することになった。その歴史や流れ、その生存戦略がどう働いているかを、この本では知ることができる。
なぜこの本を選んだか
私は元々微生物に興味がある。美術を専攻する前には大学で微生物について学んでいたぐらいだ。そんな私はこの本の帯に心惹かれた。裏面の帯にはこんなことが書いてあったのだ。
人間はわりとカビに近い
この時点ではどういう意味で書かれたものなのかがわからなかったが、自分が強く心惹かれる微生物と自分が“近い”なんて「面白いじゃないの!」と思って手に取った。
「進化」の意味を改めて理解する
この本の帯には「ノープラン最高!ムダ万歳!微生物たちの驚くべきサバイバル術」「成功者はいつだってへんなヤツらだ」と書かれており、なかなかにキャッチーだ。実際、書かれている内容も、確かに“驚くべきサバイバル術”ではある。
とはいえ、著者が文中やあとがきに書き記しているように、さまざまな読者に届けるためにキャッチーな表現が用いられているというだけで、本書はいたって真面目な生物学の本だ。
特に、「進化」についての説明を読むと、いたって真面目な、(否、わざわざ“真面目な”と表記することもキャッチーな表現の一つかもしれない)学術的な本であることが理解できるはずだ。
進化といえば、“進化”という言葉がキーワードとなって出てくるあるゲーム(本文ママ)があるが、著者が述べるように実際の進化は意味合いが異なる。
“進化とは、ある生き物の集団において、次世代以降にも遺伝する特徴が変化していくこと”であり、“生まれてくる子にも受け継がれる特徴の話”なのだ。そしてそれは、有利な特徴をもつものが子孫をたくさん残して生き残る場合もあれば、子孫がたくさん作れなくても、“たまたま生き残って集団内のマジョリティーになる”場合もある。
進化とは偶然の産物であり、より良くなろう、より有利になろうと思ってできることではないのだ。たまたま起きた変化がたまたま有利だったために、次世代に残ったり遺伝的浮動で受け継がれたりすれば起こるというだけだ。
有利かどうかも、そのときの環境や天敵の存在に左右されてしまうのだから、偶然といえば偶然といえてしまうかもしれない。
どう進化しよう、どう進化させようなんて考えるのは人間くらいで、他のすべての生き物は考えていない。進化は偶然の産物なのだ。引用元:神川龍馬『京大式 へんな生き物の授業』p.43(朝日新書・2021年)
この感覚が腑に落ちる人であれば、この本がキャッチーなタイトル、キャッチーな表現に包まれていても、変に演出めいた本ではなく、著者が向き合う生物学についてこんこんと説いた本であることがすぐに分かる。
また、この感覚が腑に落ちなかったとしても、著者が文中で繰り返し、進化も微生物など生物の生き様も、偶然の産物であることを示しているからこそ、微生物、そして生物学、もっと広く捉えれば地球の歴史、生命の宝庫である地球そのものの、淡々とした世界観(これは私の語彙であるが)が理解できるはずだ。
〇〇だと読みにくいかもしれない
私は元々生物の授業が好きで、生物学の淡々さ、別に〇〇しようと思って進化しているわけでも増殖しているだけでもなく、子孫繁栄を基盤に命を繋いでいる感じがすんなりと受け入れられる。だからこそ、この本は読みやすかった。
一方で、なんらかの形で目の前の生き物に感情移入してしまったり、擬人化して捉えてしまったり、という人には読みにくいかもしれない。
それから、純粋に、理科や生物学に苦手意識がある人も読みにくいかもしれない。タイトルも章の見出しも表現もキャッチーであることには変わりないけど、著者が真摯に説く項目では、エンタメ性のある表現や演出はなく、まっすぐに生物学の話をしているので、理解できなかったり受け入れ難かったりする人はいると思う。
それでも、目に見えない生き物への興味や、そのような生き物に対して「動物なの?植物なの?それとも全く別の生き物なの?」といった疑問を少しでも抱いたことがある人であれば、この本は興味深いはずだ。
