こういうマニアックな仕事が、ブランドや商品の印象に大きく影響を与えていると思うと感動する。そのフォントを目にした人に違和感を覚えさせず、フォントを日常生活に溶け込ませながらも、ブランドや商品価値を決定的にするこの仕事は本当にすごいと思った。
この本を読むと、自分が好きなフォントデザインを知ることができる。
たとえば私はピエール・マルコリーニのブランドロゴに使用されているSackers Gothicやルイ・ヴィトン、ドルチェ&ガッパーナのブランドロゴに使用されているFuturaなどセリフ(文字の端の尖った部分)がないデザインが好きだとわかった(セリフのあるフォントの例は、Times RomanやTrajanなど)。
p.77〜78で登場する話も面白い。そこでは同じ影つき文字(立体っぽく見せる工夫のある文字)にもかかわらず、文字や影の間の隙間の塗り方がそんなに正確でない手書きの文字と違い、“できあいの文字で色つきのフィルムに切り抜き加工をしたもの”で書かれた文字では“とたんに「場末」感が”でるのだ。
これは……書籍に掲載されている写真や実物を見ない限り、文字では一向に伝わらない面白さなのだが、同じことをやっているはずなのに、方法を少し変えるだけで印象がガラリと変わってしまうことに私は感動した。
「第4章 意外と知らない文字と記号の話」に出てくる“アルファベットのXの字は、じつは斜め線がつながっていない”という話、その微細な違いにも感動した。これまた、書籍掲載の写真や実際にフォントに線を加えて確認しない限り、実感できない話題なのだが。
それから、ハイフン「-」と半角ダーシー「–」(ハイフンより少し長い記号)の使い分けについては、純粋に、その記号が意味するものを知らなかったので素直に「へ〜!」となった。
古本屋で昔の小説を購入する時など、フォントや文字と文字の間の隙間がどのくらいかなどを見比べて選ぶのが好きなので、いつかお気に入りのフォントで自分の文章を組んでみたいなと思った。