文芸誌ダ・ヴィンチの使い方。ライターとしての技術力をあげるために、自分の好きな文章を”写経”しよう。

 久方振りに文芸誌『ダ・ヴィンチ』を読んだ。

 高校生〜大学生時代には、小説や演劇にどっぷりハマっていたこともあり読み漁っていた文芸誌だ。TEAM NACS(ファンであることを通り越して、崇め奉りまくっている大好きな大泉洋さんが所属する劇団)が特集されている号に関しては雑誌がヨレヨレになるほど読んでいた。

 そして今、テーブルの上に置かれた『ダ・ヴィンチ』を読んで気づいた。

 

 「ライターとしての技術力をあげるのに使える・・・!」

 

 良質な文章祭りなのである。

 結論から言うと、”写経”に選ぶ文章が必ずしも『ダ・ヴィンチ』のものである必要はない。が、『ダ・ヴィンチ』を久方振りに読んで味わった高揚感を伝えたいので、題材を『ダ・ヴィンチ』とする。

 自分の好きな文章を”写経”してみよう。

 

 

文芸誌『ダ・ヴィンチ』の魅力

ダ・ヴィンチ 2018年11月号 [雑誌]

 

 文芸誌『ダ・ヴィンチ』を久方振りに読むきっかけになったのは、「日刊かきあつめ」に収録されていた以下の記事だ。

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 夫も「日刊かきあつめ」に投稿しているライターのひとりなのだが、なかや まゆさんの記事を読んで「文芸誌を読んでみたい」と購入にいたり、それが今、テーブルの上に置かれていたのである。彼が無事読み終えたかはわからん(彼は基本雑誌を読まない)。

 

作品への愛に満ちたレビュー

 なかや まゆさんが書いたnoteにもあるが、『ダ・ヴィンチ』ではそれはもう盛りだくさんな量の本が毎月紹介される。

あまりの多さに、本屋に立ち読みしに行ったような疑似体験が味わえる。

と彼女は書いているが、まさにそんな感じだ。『ダ・ヴィンチ』はもはや本屋だ。

 そんな膨大な量の本を紹介する雑誌だが、特集を組まれている本・漫画においては編集者やライターによるレビューがこれまたびっしり書かれている。

 

 そこから感じ取れるのは、ただならぬ愛。

 

 作品に対する愛に満ちたレビューがこれでもかと目に飛び込んでくる。

 わたしは、雑誌というものは基本的に愛に満ちた制作物だと感じている。特集を組み、読者にその特集の魅力を伝えるために全力で情報をあつめ、記事を書き、編集し、魅力的な写真やイラストを組み合わせ、世に出す。

 「オタク」なんて揶揄言葉があるが、雑誌は「オタク」じゃなきゃ作り出せない気がする。『ダ・ヴィンチ』からはその気迫がどちゃクソ感じられる。相手に愛を伝えたいとき、その想いを伝えるための参考書だと感じるほど、愛に詰まった雑誌だ。

 

作者の意思が伝わるインタビュー

 本や漫画をたっぷり紹介する『ダ・ヴィンチ』ならではだが、本や漫画の作者の意思がバシバシ伝わってくる密度の高いインタビューも魅力的だ。

 見開き1〜2ページにわたって紹介される作者インタビューは、最近めっきり活字を読んでいなかったわたしに「え、なにこの物語・・・読んでみたい、没入したい!」と思わせるほど、作者の作品に込めた思いがバシバシ伝わってくる。

 時々、作品に対するインタビューが物語をさらってしまい、ネタバレのような文章が目に飛び込んでくるという難点もある。

 それでも「こういう気持ちで書いた」「これを伝えたかった」「このセリフは自分でも予期していなかった」と書かれると、その熱量からその作品を読みたくなってしまう。

 熱いインタビューを1〜2ページにおさめるのは大変なはずだ。でもその1〜2ページから、書かれた文字以上の熱量を感じられるのはすごい

 

さまざまなクリエイターによる個性豊かなエッセイ

 『ダ・ヴィンチ』には掲載されているのは、本や漫画のレビュー、作家インタビューだけではない。小説やエッセイ連載も豊富だ。特にわたしはさまざまなクリエイターによるエッセイが大好きだ。

 特に今回心惹かれたのは尾崎世界観(バンド「クリープハイプ」のボーカル)のエッセイだ。

 もともと彼の楽曲にしたためられている歌詞も好きなのだが、エッセイになると彼の感性がドバドバ溢れ出ていて感動した。サラッとした書き口で、ものすごくユーモラスなのに、どこか人を突き放すような冷たさもある。基本くたびれてるみたいで面白い。

 

 『ダ・ヴィンチ』は、

  • レビュー
  • インタビュー
  • 小説
  • 漫画
  • エッセイ
  • 新作情報

とコンテンツ盛りだくさんな雑誌だ。どのページから読みはじめても、愛に詰まった文章に突き当たる。どれかひとつでも、心にひっかかる文章があるはずだ。

 

 そしてふと閃いた。

 わたしの仕事はライターだ。

 この雑誌は、伝える技術を向上させるのにぴったりではないかと。

 

ライターとしての技術力をあげる文芸誌『ダ・ヴィンチ』の使い方

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自分の好きな文章を挙げてみる

 まず愛が詰まったレビューだらけの『ダ・ヴィンチ』から「わ、これ好きだな〜」と思った文章を引っ張ってみる。早速やってみよう。

元映写技師の信好は、映画関係の仕事で身を立てようとするも上手くいかず、妻の紗弓が看護師として働きながら家計を支えている。信好と母親の死別を描いた「こおろぎ」や紗弓が不安に駆られてメールを盗み見てしまう「ごめん、好き」など、全10話を収録。夫婦それぞれの視点から交互に日常が語られる連作短編集

引用元:ダ・ヴィンチ2018年11月号 6ページ

そもそも、容姿が整っている人は、他人の容姿に口を出したりしないと思っている。となれば、もしかしてあなたも。そうか、それは大変だ。心中、いや、顔中お察しします。仲間なんだから、これからは高校野球であなたの出身地の出場校を応援するような暖かい眼差しを向けて欲しいものです。

引用元:ダ・ヴィンチ2018年11月号 76ページ 「顔は、顔だけはやめて」著・尾崎世界観

搭乗手続きを済ませて、手荷物検査の列に並ぶ。ポケットの中、カバンの中、身ぐるみ剥がされて軽くなった身体にまたすぐ戻ってくる荷物が鬱陶しい。電車や新幹線に比べて、常に余裕を強いてくるから気が抜けず余裕がない。搭乗ゲートの前で、アナウンスに耳を光らせて出発時刻を待つ。

機内へ、座席目指して細い通路を進むけれど、荷物入れにスーツケースを押し込む人が行く手を阻む。

引用元:ダ・ヴィンチ2018年11月号 77ページ 「参るが溜まる」著・尾崎世界観

恋愛の物語に必ずしもエロスは必要ではないけれど、ボーイズラブにおいてはこれが丁寧に描写されることが珍しくない。

愛情や友情、葛藤、嫉妬、秘密・・・・・・。

大なり小なり鎧をまとって生きる男たちの秘めた、とっておきの感情が発露する瞬間だからこそ、BLにおけるエロスとは「二人の関係性の物語」をもっとも贅沢に味わえるご褒美なのかもしれません。

では、描き/書き手はどんな想いを込めて作品を生み出しているのか?いま、BL界の一線で活躍するマンガ家・小説家の方々に、ボーイズラブとエロスにまつわる”とっておき”を教えていただきました。

引用元:ダ・ヴィンチ2018年11月号 204ページ

 

なにが「好き」と感じたか考えてみる

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①について

 「ふたりぐらし」という小説の概要を説明する文章だが、

  • 設定を端的に伝えていること
  • 短編集のタイトルを引き立たせるようなあらすじの書き方

に好感を抱いた。

 ”紗弓が不安に駆られてメールを盗み見てしまう”という一文は、「ごめん、好き」というタイトルを引き立たせるものではなく、作品そのものが「ごめん、好き」を印象づけるような物語だとも推測できる。

 それでも”盗み見”た後に書かれた「ごめん」と「好き」には、心動かされるものがある。

 

②について

 尾崎世界観が書いたエッセイより抜粋。②の文章は容姿、主に顔面に関する内容で、「顔が気に入らない」と言われることへの腑に落ちなさについて語っているものだ。

 そんな腑に落ちない話題を、ユーモアのある書き口で表現する。でもその中から、「ほっといてよ」と周りを牽制するような空気が滲み出ていて、好きだった。”心中、いや、顔中お察しします”は笑った。

 

③について

 飛行機の移動にくたびれる、というエッセイだが、飛行機移動ならではの儀式というか、あの絶妙にめんどくさい搭乗手続きの様子がテンポよく描かれていて好きだった。テンポがいい”のに”くたびれるのか、テンポがいい”から”くたびれるのか。

 機内乗り込みのとき、前の人が荷物を押し込むことで起きる渋滞で感じるビッミョ〜なイライラが滲み出ていて、ものすごく共感した。

 

④について

 2018年11月号は「ボーイズ・ラブとエロス」という特集が組まれている。その冒頭文である。BLにおいて、エロスがただのエロスではなく、男性同士の秘めたる感情がドーンと溢れ出ちゃったときの重要な表現なんだ!というのを描く文章。

 極端に甘美な文章を用意するでもなく、真摯に「ボーイズ・ラブとエロス」を見据えているような文体が好き。エロを過剰に表現せず、愛情表現のひとつとして見ているような書き口は、ボーイズ・ラブを知らない人にも抵抗なく読んでもらえる気がする。

 

自分の好きな文章を”写経”してみる

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 今回ブログで紹介するにあたり、”写経”してみた(手書きではないけれど)。

 ”写経”してみてわかったのだが、選んだ文章はどれも下手な装飾をしていない。伝えたい内容がはっきりしているし、文章も一文一文が短くまとまっていて読みやすい。読み進めるのが楽しい文章は、そもそも読みやすいし、はっきりした意思がある

 今回抜粋しなかった文章の中には話し言葉すぎるものや、どこに要点があるかわかりにくいものもあった。とはいえ、『ダ・ヴィンチ』に掲載されている文章で「なんじゃこりゃ〜」ほど文が破綻しているものはないけどね。

 

自分の文章に落とし込んでみる

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 こっからが大変だ。

 「いいな〜」と思った文章にならって、自分の文章を書く。

 わたしはWEBライターなので、

  • まず読まれること
  • 読まれた文章が評価されること
  • 読まれた文章がきっかけで、作品に接する人が増えること

が自分に必要な技術だと考えている。

 ”写経”をして、理想を見つけたら、自分がそれをできるように書き続ける。技術を習得するのにゴールはない。新しい読者の目に、わたしの文章が届く限り、ずっと技術を向上し続ける必要がある。それも死ぬまで(死ぬまでライターやってたいので、とりあえず死ぬまで)。

 書いた文章の評価をするのは他人なので、評価を受けるために書き手は地道に文章を書き続ける。どこかで評価を得ては、指摘されたところをより良い文章のために改善して、また書き続ける。

 

 「こっからが大変だ。」と書いたのは、わたしが思うライター像、というか働く人が、常に向上し続ける人だからである。わたしはこの理想を自分に落とし込みたいから、ライターを続ける間は”写経”を忘れちゃならんのだ。

 

 とはいえ、物書きさんにはぜひ、この”写経”をすすめたい。

 「いいな」と思う文章には発見がある。”写経”して、好きな文章を書き溜めていくと、自分の書きたい文章・書くべき文章の方向性も定まる。いいことづくめだ。

 

 悪いことと言えば、ちょっとだけ相手の文才に嫉妬しかけるところぐらいか。

 

文芸誌の面白さを再発見した

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 夫がテーブルの上に『ダ・ヴィンチ』を置かなければ、この雑誌としての面白さと、活用法としての面白さに気づくことはできなかっただろう。何気なく置いて会社へ行った夫に感謝である。

 文章を読む楽しさ、書く楽しさを思い出すにはもってこいの雑誌だと再発見した。読み物としては、相当小説が苦手でない限りは、面白いはずだよ。

 では。

 

◆本日の一冊◆