※2018年6月27日更新
映画「恋の罪」で、ある女性教授が読む詩がある。
言葉なんか覚えるんじゃなかった。
言葉のない世界。
意味が意味にならない世界に生きてたらどんなに良かったか。
この詩がずっと頭を巡り続けている。
『言葉なんかおぼえるんじゃなかった』
本屋で平置きされている本の中に、これを見つけた。
映画『恋の罪』で女性教授によって音読された詩の一説が表紙にでかでかと書かれている。ずっと頭を巡り続けていた詩だったので、見つけた時にはとても感動した。
詩人・田村隆一、ひたすらに粋
「言葉なんかおぼえるんじゃなかった: 詩人からの伝言 (ちくま文庫)」の冒頭は、この本の企画を立ち上げた著者・長薗安浩と田村隆一のやり取りが描かれている。
長薗安浩による「田村隆一」を理解するためのメモ、そして彼に取材をした日の出来事などが描かれているが、田村隆一はただひたすらに粋である。
型破りなダンディズム
と作中にあるが、確かにこんな男性がいたら、異性だろうが同性だろうが心惹かれるだろう。茶目っ気のあるダンディな男である。
本の中にある「ウイスキーの話」が面白い。
田村さんは医者にも奥さんにも止められているにも関わらず、いつもどおりに酒を求める。田村さんは長薗さんに命じる。
ウイスキーをかすめてきてくれ、水はトイレから拝借しろ。
長薗さんも長薗さんで、奥さんが外へ出かけて行ったのを確認してこっそりかすめ、共に飲み、酔いと興奮がまわり「詩は時限爆弾ですよ!」と田村さんに伝える。
「爆弾か、ずいぶん物騒だな」
「だって、先生の詩、言葉なんかおぼえるんじゃなかったではじまる『帰路』、僕は高校生のときに初めて読んで、十六年以上も忘れていたのに、ふっと思い出して胸がざわつくんだから、危ないよ」
「そうか・・・・・・」田村さんは新しい煙草に火をつけて美味そうに一服した。
「ちょっとは、君も詩がわかったな」
この後、案の定奥さんに見つかって2人ともこっぴどく叱られる。
「君も詩がわかったな」というキザな台詞と、このウイスキーの話のオチ(奥さんに2人とも叱られる)が何とも愛おしくて、格好いい。
紡がれた言葉が心に刺さる
彼の書く詩は心に刺さる。
でもその刺さり方は決して乱暴な刺さり方ではない。紡がれた言葉を読んでいると、「ああ、そうか」と何だか合点のいくような、とげとげしくない刺さり方をする。
例えば結婚をテーマにしたお話。
本を購入した当時、わたしは「本当に結婚して良かったのだろうか」と悩んでいた。でも、そんな想いも肯定してくれるような言葉が、この本には詰まっていた。
結婚しなければわからない―――結婚が難しいのは、これに尽きる。~互いに性ホルモンに突き上げられて結婚するんだよな。だから、まずアドバイスとしては、一年間は子供をつくらないこと。一年あれば相手の実態がわかってくるから、その間にパートナー、つまり共同生活者としてやっていけるかを確認するんだ。夫婦ってのは、最小単位のコミュニティだから、パートナーとして組めなければどうしようもない。
「結婚しなければわからない。」
さも当たり前のことのように言ってのける、彼の飄々とした姿が想像でき、まんまとしびれてしまうのだった。
詩人・田村隆一を知ってほしい
近年、詩を読む機会なんてないに等しい。
「歌詞」は存在するが、聞いていない人がいるのも事実だ。文字として紡がれた想いに読みふける機会はもうあまりない。
ただそれでも、田村隆一の詩を知ってほしい。
わたしの場合、詩に載せられた彼の感情や想いのすべてを読み取ることは叶わなかったが、自分の心境にぴたっとハマる心地のいい詩を見つけることができた。
田村隆一はただただ格好いい。
彼の言葉にしびれてほしい。
では。
◆本日の一冊◆