Twitterで見かけた #名刺代わりの映画10選 というハッシュタグがものすごく好きだ。
わたしは映画が大好きなので、その人がどんな映画を好きなのかはものすごく気になる。好きな映画が一致していれば盛り上がるし、嫌いな映画を挙げていればその人の価値観を知りたいと感じる。
以前このブログやTwitter上で、 #名刺代わりの映画10選を挙げて発信したのだが、この度、ブログプロフィールよりも読んでほしい記事として深掘りすることにした。
楽しんでいただけると幸いである。
名刺代わりのおすすめ映画10選
ブレードランナー2049
カルト的人気を誇る『ブレードランナー』の続編として描かれた今作は、『ブレードランナー』を愛して止まないドゥニ・ヴィルヌーヴ監督の深すぎる愛が詰まっていた。
オリジナルも好きだが、オリジナルの謎を一切解明することなく、むしろモヤモヤをオリジナル以上に残した今作にいたく感動した。
『ブレードランナー2049』で描かれるのは、レプリカントである主人公・Kの人生だ。ただ淡々と、Kの人生が映し出されるだけである。Kにとっては、起こる出来事のすべてがドラマチックに感じたはずだが、それすらも仕組まれていたとしたら。
今作は163分と長い。
しかしディストピアな世界、映像、シナリオ、音響、そのすべてがじわじわと飲み込んでいく。ディストピアな世界に沈み、たゆたうような感覚に陥る。一種の麻薬なんじゃないかと思ってしまうほど、ずぶずぶに沈む。
主人公・Kの姿もたまらないのだが、彼を執拗に追い回す新型レプリカント・ラヴの無気力な目元、残虐性、人間味のある感情に、頭が振り回される感覚も好きだ。ラヴの向ける敵意はゾワゾワする。
そして「どこからが人間か」という問いに、一切答えが出ないところも好きだ。
難解な物語だと捉える人もいるかも知れないが、今作に漂う薄ら暗い空気は、想像以上に心地よいので知ってほしい。
▶︎『ブレードランナー2049』のレビューはこちら。
ローガン・ラッキー
『オーシャンズ11』『オーシャンズ12』『オーシャンズ13』で有名な監督の作品。
物語の構成はオーシャンズシリーズとなんら変わらない。そのためオーシャンズシリーズに対して、寒いぼが出るほど嫌い・・・という人でない限りは安心して楽しめる1作だ。
が、この『ローガン・ラッキー』、オーシャンズシリーズとは一味違う。
何と言っても犯罪行為を犯すのは、決してスマートとはいえない素人犯罪者ばかりだからだ。オーシャンズシリーズで味わうことのできるハラハラ感とは違う。ツメの甘いシーンが連続し「いや〜!バレるバレる!!!」といった不安感がたまらない。
おしゃれなドリフ大爆笑といったところか。
またチャニング・テイタム演じる兄と、アダム・ドライバー演じる弟の、社会に馴染めていない雰囲気や若干のコミュ障感が愛おしい。悪巧みをするとき、結局兄に逆らえない弟の性が見ていて面白い。「カリフラワーって言ったか?!」は必見だ。
物語は、あのオーシャンズの監督なので安心感がある面白さだ。
それでいて登場人物同士の人間関係が秀逸なので、彼らに対して思わず「愛おしい」という感情が湧く。下手な家族映画より家族映画であり、どのクライム映画より焦りの描写はリアルなのかもしれない。
シングルマン
とにかくコリン・ファースが艶っぽい作品。
愛する恋人に死なれ、生きる気力を失ったくたびれたコリン・ファースの姿もエロティックだが、愛する恋人と出会った頃の、まるで恋する少年少女のようなピュアすぎる好意が愛おしい。コリン・ファースを抱きしめたくなる映画である。
ファッションデザイナーであるトム・フォードの初監督作品だと聞くが、その映像の美しさには恐ろしいものを感じる。あまりにも綺麗すぎて、映画を観ながらトロけるような快感を得ることができる。
死の直前になって、世界が美しく見える描写に絶句する。
心に穴がぽっかり空いたコリン・ファースの演技と、彼の前に現れる美しいものの数々。愛しい人。大親友の女性。若い学生。登場するもの全てに圧倒される1本。
美しくないものが1つも出てこないという体験をぜひ。
フローズン・タイム
恋人に振られたことがきっかけで不眠になった青年が、時を止められるようになる。設定や映像だけを観ると、ものすごくファンタジーな世界なのだが、描かれている映像はとにかく美しい。
彼は不眠になってしまった時間を利用してアルバイトを始めるのだが、そんな彼が時を止めたとき、バイト先の同僚・シャロンの美しさに気づくシーンが愛おしい。彼女をまじまじと見つめ、その美しさに見惚れる描写は、繊細な画で描かれる。
ファンタジーな映像が何度も登場するとはいえ、描かれている主人公・ベンとシャロンの恋物語は甘酸っぱく可愛らしい。シャロンと仲が深まれば深まるほど、時間を止められなくなる描写もいい。彼が喪失感から立ち直ることの比喩だ。
登場人物の心の揺れ動きが、その独特な演出と役者陣の繊細な演技によって細やかに表現されている。そのため、映像としても美しければ、物語も美しい。監督のショーン・エリスは、雑誌ヴォーグなどで活躍する写真家なのだそうだ。
どうりで1シーン1シーンが美しいわけだ。
ブロークン・イングリッシュ
結婚を焦る主人公が出会った男性は、異国の人だった。アプローチしてくる魅力的な彼に戸惑う主人公だが、2人は結ばれる。しかし男性は、彼女のことを想いながらも自国へ戻ってしまう。
異国へ戻ることになった男性を想う主人公の変化が、観ている人の心に勇気を抱かせてくれる前向きな映画だ。
結婚を焦る主人公は、恋愛に対して弱腰なうえ、自分にも自信がもてないような描写がある。というか、精神不安から薬を服用するシーンもあり、見ていて少しつらくなる。
しかし、そんな彼女に積極的にアプローチし、支えてくれる男性のおかげで、彼女の纏う空気が徐々に柔らかくなっていくところがこの映画の見どころだ。
鑑賞していると、はじめこそこの男性に対して「異国特有の恋愛体質なだけなのでは?」と勝手な偏見で観てしまうが、彼女のことを真摯に想い、受け入れてくれる男性だということはすぐに分かる。
彼女自身もそれを理解し、彼を受け入れ、真剣に向き合う。その姿に思わず心打たれてしまう。
恋愛映画の中で、何度も繰り返し観たくなる映画であり、人に恋愛映画をすすめるときには必ず挙げている映画だ。
パターソン
この映画、驚くほど何も起きない。
わたしは今までたくさんの映画観てきたが、ここまで普遍的な日常を描いた映画ははじめてだった。鑑賞中、ついつい映画らしい展開を求めてしまうのだが、そんな予想をいい意味で裏切り続けてくれる。
退役軍人でバス運転手のパターソンの、なんてことない毎日。詩を書くのが好き。奥さんは天真爛漫。行きつけのバーには失恋して凹む友人の姿がある。何かが起こりそうで何も起きない毎日だが、パターソンは極端に人生を憂うことも楽しむこともない。
淡々と、毎日を生きる。
パターソンのある7日間がとにかく淡々と描かれる映画なので、「淡々と描かれる映画が眠くなる・・・」という人にとっては、確実に安眠映画になってしまうだろう。
しかし「映画は普遍的な日常を追求することもできるのだ」という新しい発見も待っている。ただの安眠映画にするには贅沢すぎる。
淡々とした毎日は、人によってはつまらないと感じるものなのかもしれない。
しかし『パターソン』で描かれる淡々とした毎日は、確実に幸せのかたちであり、贅沢な時間を表現している。
こんな風にして生きたいと、感じさせる良作だ。
ムーンライト
劇場で観て、余韻で立ち上がれなくなった作品。
愛の深い映画だった。
登場人物の背景や感情の揺れ動きに対して、モノローグのような説明は一切入らない。淡々と映し出される登場人物たちの表情や、彼らの置かれている状況だけで、全てが伝わってくる。
主人公・シャロンが向ける視線が、切なくて愛おしい。大切な人に自分の想いを言えぬまま、成長していく姿に胸が苦しくなる。
シャロンは3人の俳優により、成長に合わせて演じ分けられるが、3人全員がシャロンを体現している。見た目に変化は生じるが、3人は確実にその時期その時期のシャロンだ。
最終章のシャロンは、彼に起こる出来事に嬉しくなるものの、彼の人生を思うと悲しくなる。忌み嫌うことになってしまった大人の姿に、自らも溶け込んでしまうという世界の残酷さに心を打ち砕かれてしまった。
劇場で鑑賞していた時、周りにいた観客全員が息を飲むようにして映画に観入っていたことも印象的だ。
狼たちの午後
わたしはアル・パチーノが好きだ。
あのエロチックなタレ目と圧を感じる雰囲気にやられてしまった。夫に勧められて鑑賞した『ゴッド・ファーザー』、目の見えない退役軍人を演じた『セント・オブ・ウーマン 夢の香り』等、どのアル・パチーノもたまらないが、今作が一番魅力的だ。
物語は実話をベースにしている。ある男たちが銀行強盗に押し入るが、計画があまりにもずさんだったため失敗。なんとか金を手に入れたい彼らは、人質をとって銀行に籠城する選択肢しか取れなくなってしまう。
アル・パチーノは銀行強盗を行う男のひとりだが、決してスマートな役ではない。
しかしそんな彼の強盗を行った理由や、銀行強盗を犯した彼らの過去、現在が明かされると、物語はコミカルな前半からシリアスで切ない後半へと変貌する。
とにかく余韻がすごい。
「ストックホルム症候群※になる・・・」とこちらが感じてしまうほど、アル・パチーノ演じる男に対する人質、警察、一般市民の感情の揺れ動きに心が影響される。アル・パチーノが市民に向かって演説するシーンも圧巻。
最後は少し切なく、わたしの心にいつまでも沁みついている作品だ。
※誘拐・監禁などの被害者が加害者の意見に同調したり加害者をかばったりする心理
ハッピーボイスキラー
俳優ライアン・レイノルズのすごさに気づいた作品。
枠としてはコメディだが、ブラックコメディ・ホラーコメディといったほうが受けやすいだろう。タイトルにもあるように、ハッピーな声が聞こえてしまう殺人鬼の話といえば、察しがつくだろうか。
正直、クソ真面目なわたしは「この映画は笑うべきだったのか否か」でずっと迷っている。大好きな映画であることに代わりないが、ある病気を真面目に伝える映画でもあれば、その病気をおちょくっているようにも思えるからだ。
なかなか難しい映画だが、主人公・ジェリーの残酷すぎる過去には誰もが同情するだろう。
主人公・ジェリーの不器用通り越して引いてしまう愛情表現は、あまりにもコミカルで悲しくて、どうするのが正解だったんだろうと問いたくなる。
コメディとして笑える作品ではあるのだが、ふとした瞬間にどうすればジェリーの心が救われたか考えてしまう。
ラストシーンは、あれはもう完璧にギャグなのだが、あれが導入されることにより、それまでの物語がグサリと心に突き刺さるから、嫌になる(褒め言葉として)。
なお原題は『The Voices』。
ギャグなラストシーンのあと、ぼんやりと浮かび上がる原題を観て、あなたがどう思うかをわたしは知りたい。
▶︎『ハッピー・ボイス・キラー』のレビューはこちら。
フィルス
コメディジャンルにあったので借りたが、全然コメディじゃなかった1作。笑おうと思ってもそう簡単に笑えない物語なのだが、確かに主人公・ブルーズのクズっぷりはゲスの極みとも言えるレベルなので、そこを笑おうとすれば笑えるのか。
ブルースの汚職は大それたものではないが、とにかく最悪だ。子供相手に中指を立て、しょうもない罠で仲間を蹴落とし昇進する。女と遊びまくり、売春していた少女に×××を強要するシーンはゲスすぎてゾッとする。
が、クズすぎるブルースが抱える深刻な闇を見せられたとき、クズすぎる自分を責め続けていた窮屈なブルースの姿が途端に悲しく見える。
物語を進展させるきっかけである「日本人留学生殺人事件」が発展する終盤、見た目は「笑ってもいいんだよ〜」と言われているようなポップさなのに、少しも笑えない映像が待っている。
観終えた後、おそらく愕然とするだろう。
ブルースが見せる笑顔は、頭にこびりついて離れなくなる。
▶︎『フィルス』含むジェームズ・マカヴォイ出演作品レビューはこちら。
名刺代わりの映画10選を交換してみよう
なお #名刺代わりの映画10選 の面白さは、名刺のように交換することにもある。
わたしは夫と映画を観るのが大好きなのだが、夫に #名刺代わりの映画10選 を聞いてみたところ、わたしの選んだ作品と大幅に違った。
「この映画10選だけで誰かを当てろゲーム」をやっても、「これを選んだのは夫です!」と当てられる自信がある。そのぐらい夫らしい10選だ。
彼の好きな映画はTHE・エンターテイメントという印象だ。かといって、ゴリッゴリに王道かと思いきや、ミニシアター系で話題を呼んだエンターテイメントも多く、いかにも彼らしい。
この映画10本で、彼の「誰とでもすぐ仲良くできてしまう」性質が映し出されているようにも思える。
好きな映画を紹介することの面白みを感じる。
もちろんこれは、映画だけでなく音楽Ver.、本Ver.でも楽しめるだろう。ぜひ友人やこれから仲良くなりたい人とやってみてほしい。
なお、わたしが紹介した10選がきっかけで、わたしと仲良くしてもらえると嬉しい。
では。