※ネタバレあり
ハッピーボイス・キラー
あらすじ
ジェリー・ヒックファン(ライアン・レイノルズ)はバスタブ工場に勤める、風変わりな青年。しゃべるペットの犬と猫に唆されながら、裁判所が任命した精神科医ウォーレン博士(ジャッキー・ウィーヴァー)の助けを借り、真っ当な道を歩もうとしている。彼は職場で気になっている女性フィオナ(ジェマ・アータートン)に接近する。だがその関係は、彼女がデートをすっぽかしたことをきっかけに、突如殺人事件へと発展してしまう。
映画公式HPにて「キュートでポップで首チョンパ!」とキャッチコピーに書いてあるので、大体どんな映画かは察しがつくだろう・・・。
悲しくて怖くてポップでムカつくラスト
ハッピーボイス・キラーは不思議な映画だ。
わたしは「問題のラストシーン」こそ、この映画を好きになってしまう最大な理由だと考えている。が、人によっては「台無しだよ!!!」と思うのかもしれない。
犬と猫に煽られ(本当は自分自身の内なる声に煽られ)大好きな人を殺し、そのうち殺したはずの大好きな人の生首に煽られ(もちろんこれも自分の声)、また人を殺す。
散々人を殺したあげく逃げようとした主人公・ジェリーは逃げ切れずに死ぬが、真っ白な美しい世界で死んだはずのパパ・ママ、死んだはずの大好きな人たち、神様に囲まれて「ハッピーソング」を歌う。
…いやいやいや、都合よすぎだろっ!!!
となるラストシーンである。主人公は悲しい男ではあるが、散々人を殺している。にもかかわらず、明るい世界で
ジェリー「殺してごめんね、みんな」
みんな 「いいのよ、ジェリー」
いやいやいやいや(笑)!!!
ただ・・・この悲しくて怖くてポップでムカつくラストシーンがあるからこそ、主人公の悲しい人生が際立つのだろう。このラストで賛否両論を巻き起こすこと自体が、この映画の狙いなのかもしれない。
ライアン・レイノルズの不気味さ
主人公・ジェリーを演じるのは、大人気アメコミ映画で主人公・デッドプールを演じるライアン・レイノルズである。
ライアン・レイノルズといえば、どこかセクシーで、お調子者で、でもアクションやシリアスな演技もできて…という名俳優だが、今作を観ていただければ彼がどれほどまでに見事な「役者」であるかが一目瞭然だ。
主人公・ジェリーは不気味だ。
純朴で優しい青年だが、どこか踏み入れてはいけない空気をまとっている。それはやはり「彼にしか聞こえない声」が原因なのだと思うのだが、彼が自分の不気味さに気づくことはない。
だから、大好きな人がその不気味さに気づき逃げ惑っても「なぜ自分から逃げるのか」が分からない。目の前で人が苦しんでいても「助け方」が分からない。
ライアン・レイノルズは、人と距離を詰めた瞬間に生じるジェリーの不気味さを巧みに演じている。
この映画は、ライアン・レイノルズの演技が好きになり、彼の演技が巧みすぎて嫌いになる。そんな映画なのだ。
原題「The Voices」と邦題
今作、原題は直球に「The Voices」である。
今作のラストシーンのポップでムカつく感じ、殺害シーンと普段のシーンのギャップを考えると、邦題「ハッピーボイス・キラー」のほうがしっくりくるかもしれない。
でもムカつくラストシーンが終わった後、不協和音と共に現れる「The Voices」の文字のおどろおどろしさは凄まじい。かなりゾッとする。ホラー映画として見るなら「The Voices」の方がしっくりくるだろう。
しかし、生粋のホラー映画かと問われると、絶対に違う。これはホラー映画ではなく、1人の青年の苦しみを体現した映画だ。
この映画については、ずっと考えさせられる。
ジェリーは治療しない方が幸せだったのではないか。だけど治療しなかったからこそ殺人事件に発展したのも事実だ。でも”彼自身の幸せ”を考えると、悩む。
殺人は許されない。でも、どうしたら彼女たちを救えた?彼を救えた?どうすれば彼は孤独を感じなかった?
もしかしたらここまで考える必要のないポップでキュートな映画なのかもしれないが・・・。
笑った後にゾッとする、それとも
ハッピーボイス・キラーは不思議な映画だ。
初見では、笑った後にゾッとした。繰り返し見るうちに、ゾッとした後に笑うに変わった。いいのか、悪いのか、分からない。「人生は近くで見ると悲劇だが遠くから見ると喜劇である」なんて名言を思い出した。
この映画、見れば見るほどどう見たらいいか分からなくなる映画である。
ぜひに。
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