「ワッ!」と脅かされる系のホラー映画は苦手なのですが、『嫌われ松子の一生』『告白』『渇き。』でおなじみの中島哲也監督作品となったら・・・行くしかないと。
で、観てみたら、めちゃくちゃ面白かった。
ホラー映画としての質も最高。わたしは映画鑑賞中、3〜4回頭の先から足の先までゾワワ〜ッと鳥肌が立つ瞬間があって・・・それがすごく不快で心地よかった。
※ネタバレあり。ネタバレNGの方は、鑑賞後に読んでいただきたい。
来る
出典元:https://twitter.com/kuru_movie/status/1070655962996858880
あらすじ
恋人の香奈との結婚式を終え、幸せな新婚生活を送る田原秀樹の会社に謎の来訪者が現れ、取り次いだ後輩に「知紗さんの件で」との伝言を残していく。知紗とは妊娠した香奈が名づけたばかりの娘の名前で、来訪者がその名を知っていたことに、秀樹は戦慄を覚える。そして来訪者が誰かわからぬまま、取り次いだ後輩が謎の死を遂げる。それから2年、秀樹の周囲で不可解な出来事が次々と起こり、不安になった秀樹は知人から強い霊感を持つ真琴を紹介してもらう。得体の知れぬ強大な力を感じた真琴は、迫り来る謎の存在にカタをつけるため、国内一の霊媒師で真琴の姉・琴子をはじめ、全国から猛者たちを次々と召集するが……。
今作は3部構成になっており、
- 秀樹視点
- 香奈視点
- 野崎視点
で描かれる。どの章もず〜っと不穏なのがいい。
全員怯える対象は”あれ”なんだけど、正直な話、観客からすれば”あれ”以上に怖いのは人間だ。
恐怖×エンターテイメント、最高!
出典元:https://twitter.com/kuru_movie/status/1070855540022996993
中島監督らしい映像美が素敵
まず、映画冒頭の映像に感動した。
中島監督らしい、生々しい、艶々しい撮り方で、これから起こる恐ろしい出来事を表すような抽象的な映像が映し出される。音楽に合わせてぬらぬらと動くそのオープニング映像に心惹かれてしまう。
今作には、ホラー映画らしい「やめてー!!!」と叫びたくなるような恐怖映像がある。なんならちょいグロな映画だ。なのに映像が美しすぎて、登場人物に起こる悲劇が恐ろしくも美しく見えてしまう。
登場人物に”あれ”は容赦なく襲いかかる。
死んでしまう登場人物は皆、まあまあスプラッターな死に方をする。でも血みどろになった姿が目に焼き付くのは「怖いから」だけではないと思う。死に様が美しく切りとられるからだと考えている。
鑑賞中何度も目に飛び込んでくる鮮血。
でもその鮮血はただグロテスクに映るだけではなくて、劇中登場する台詞「痛みがあるということは生きているということです」に通ずる。飛び散る鮮血が、生きている証のように見える(もちろん血を流しすぎた登場人物は容赦なく死ぬけれど)。
「グロいし怖いのに美しい」
そんなホラー映画はじめて観た。ホラー映画をホラー映画として撮りながら、良質なエンターテイメントとして楽しめるだなんて思ってなかった。
登場人物の抱える闇が深すぎる
それから、今作で一番怖いのは襲いかかる”あれ”ではなく、人間だ。
登場人物全員が心に深い闇を抱えている。
薄っぺらい善意を振りかざす自称イクメンパパの秀樹。そんな秀樹を密かに見限っていた香奈。かつて恋人を中絶させた過去にとらわれる野崎。
ネタバレすると、秀樹の親友という立場に立ちながらも、香奈と不倫関係になり、あげく魔導府(魔物を導くもの)を秀樹の家に置いていった津田も恐ろしい。彼は「人のものを奪う」ことに楽しみを見出していた。彼も結局”あれ”に呪われる。
秀樹より先に”あれ”に接触して死んだ後輩も、床に伏せっているとき、口から発せられたのは恨みの言葉だった。
特に”あれ”に狙われた秀樹と香奈の台詞にはゾッとする。
秀樹「たかが1人産んだくらいで偉そうに」
香奈「秀樹が死んで嬉しかった」
”あれ”が登場するシーン以上に背筋の凍るシーンだった。自身のトラウマを乗り越えた野崎以外の登場人物は、”あれ”の存在以上に恐ろしい言葉を吐きながら死んでいく。底の見えないぐらい深い闇が彼らを覆っていくのを感じる。
お祓いシーンのエンタメ感最高
はじめに『来る』の予告編を見たとき、「霊媒師」というワードに偏見をもっていた。「そっち系の映画かー」なんて思っていた。
が、お祓いのシーンは圧巻だ。ものすごくワクワクする。
強い能力をもった霊媒師・比嘉琴子(松たか子)は、強大な”あれ”を祓うために「使えるものはすべて使う」と全国の有力な霊媒師をかき集めてお祓いを行う。
お祓いされることを察してか、”あれ”の邪悪さも凄まじさを増す。害のなさそうな、ほのぼのとした雰囲気の霊媒師が容赦なく殺される。お祓いが始まる前に、琴子が呼んだ霊媒師の半分以上が殺されるのだから恐ろしい。
しかし彼らが同業者の死を察し、「我々のうち1人ぐらい生き残ればいい方でしょう」と冷静に行動するシーンを見たとき、その姿は素直にかっこよかった。
命がけの戦い(お祓い)に臨む霊媒師の姿に、偏見をもっていたわたしは、あっけなくときめいた。
”あれ”が姿を表さないのがいい
今作は、登場人物の抱える闇がものすごくホラーで、お祓いシーンがものすごくエンターテイメントだ。しかし、ここで”あれ”に明確な姿が与えられていたとしたら、ここまで映画として面白くなかっただろう。
”あれ”には具体的な姿が与えられていない。
否、小さな子供の姿としては登場する。
秀樹が小さな頃に”お山”に連れて行かれた女の子や、複数人の子供の姿として登場することはある。ただし秀樹や香奈などが殺されたときの傷跡に見合うような姿では登場しない。それがまた薄気味悪くて良いのだ。
”あれ”は恐らく、無邪気に人を殺すのだ。
劇中、子供たちがおもちゃで遊ぶように虫を殺すシーンが挿入されるが、”あれ”のやってることはそれと同じなのかもしれない。虫の足を1本1本引きちぎって遊ぶノリで、”あれ”は人を殺していく。
今作のMVPは柴田理恵
出典元:https://twitter.com/kuru_movie/status/1074602351313350656
恐怖とエンターテイメントのバランスがめちゃくちゃ良い映画だったので、もうその脚本・演出・映像・音響だけでも「めちゃくちゃ良い映画ですよー!!!」と言って回りたい。でも一番訴えたいのはある役者の魅力。
今作で注目すべきは柴田理恵。
個人的には、松たか子らを食うほどの存在感だと思った。
柴田理恵が演じる逢坂セツ子は、すぐに現場に急行できない琴子が紹介した腕利きの霊媒師だ。メディア出演時の逢坂の姿はめちゃくちゃ胡散臭いのだが、目の前に現れた逢坂は常人とは違う空気を纏っていた。
1回目の”あれ”との接触では片腕をもがれる。
しかし逢坂は片腕をもがれてもなお、信頼できる関係である琴子の要望に答え、”あれ”のお祓いに参加する。
それどころか、自分が死んだことに気づいていない秀樹の弔いも行う。穏やかに秀樹をさとしつつ、彼の手にナイフを突き刺し「生きている者だけが痛みを感じる」と伝え成仏させる。
その姿には優しさと説得力があり、長年の経験を感じさせる。
逢坂はその場に居合わせた野崎に「痛みがあるということは生きているということです」と助言する。野崎はその言葉を理解したからこそ、痛みを味わって過去を乗り越えることができた。”あれ”と接触したにも関わらず、野崎だけは生き残る。
逢坂の活躍にはワクワクしてしまう。
個人的な意見だが、今作で一番かっこいいキャラクターは逢坂セツ子だと思う。
ホラーエンターテイメントは面白い
出典元:https://twitter.com/kuru_movie/status/1066692984157069312
鑑賞中に全力で背筋がゾクゾクしたことに感動したし、映画として見やすかったことにも感動した。秀樹と香奈の子供・知紗を命がけで守ろうとする野崎と真琴の姿には思わず泣いちゃったし・・・とんでもねえ映画ですよ。
怖さ、不気味さ、悲しさ、愛おしさ、共感できる部分と共感できない部分と、あれやこれや・・・もー色々ぶち込まれすぎて頭から離れなくなる映画であることには間違いない!
もう1回観たい。
もう1回観て、またげんなりしたい。
では。
◆本日のおすすめ◆
パンフレット読んで知ったけど、このシリーズは「比嘉姉妹」シリーズなんだね。全作読んでみたい。