驚くほど厭な気分になる、最高の映画でした。
※ネタバレあり。この映画は語り尽くすまでが『ヘレディタリー』だと感じさせるほどの強烈な映画だ。ネタバレせざる得ない。ネタバレNGな人は、鑑賞後に読んでいただけると嬉しい。
ヘレディタリー
出典元:https://twitter.com/hereditaryjp/status/1071752806342643712
あらすじ
家長である祖母の死をきっかけに、さまざまな恐怖に見舞われる一家を描いたホラー。祖母エレンが亡くなったグラハム家。過去のある出来事により、母に対して愛憎交じりの感情を持ってた娘のアニーも、夫、2人の子どもたちとともに淡々と葬儀を執り行った。祖母が亡くなった喪失感を乗り越えようとするグラハム家に奇妙な出来事が頻発。最悪な事態に陥った一家は修復不能なまでに崩壊してしまうが、亡くなったエレンの遺品が収められた箱に「私を憎まないで」と書かれたメモが挟まれていた。
厭な雰囲気満点
#ヘレディタリー /継承
— 全国公開中『ヘレディタリー/継承』公式 (@hereditaryjp) 2018年12月12日
今日はレディースデイですね。ぜひ映画館におでかけください。 pic.twitter.com/Wusn5Tgkxw
11月30日に公開された映画。
公開された次の日ぐらいに観に行った映画ではあるのだが、最初っから最後まで漂う厭〜な雰囲気と余韻がすごすぎて、レビューを書き始められなかった。人に伝えるには、心を落ち着かせる時間が必要だったのだ。
そのぐらい強烈な作品である。
最初から仕組まれているという気味の悪さ
この映画の何が厭だって「最初からグラハム家の運命が仕組まれている」ということだ。この映画に救いはない。観客は、亡くなった祖母エレンの手の上で転がされるグラハム家の行く末を観ることしかできないのだ。
ネタバレしてしまうと、祖母エレンは「悪魔崇拝者」だった。エレンの葬儀で娘アニーが式辞を読む。自分と面識のない人々がエレンの葬式に参列してくれていることに感謝するが、その面識のない人々も「悪魔崇拝者」だ。
グラハム家は、悪魔崇拝者に囲われた家族なのだ。
グラハム家に起こる不気味な出来事は、すべて祖母や悪魔崇拝者たちが仕組んだことに過ぎない。アニーはミニチュアハウス作家なのだが、彼女がミニチュアハウスをつくるように、彼らもまた、グラハム家が悪魔の儀式に役立つよう仕込んでいたのだ。
劇中、観客はグラハム家の行く末を悟る。でも悟った時には、すでにグラハム家は壊れかけのおもちゃのようにボロボロだ。あのボロッボロになったグラハム家を嬉々として覗き見ている崇拝者の姿を想像すると、ものすごく怖いし、胸糞悪い。
一瞬たりとも心穏やかなシーンはない。
最初から最後まで潔く不穏な空気が続くこの映画に感動した。
母親の愛が誤解を招く描写にげんなり
本日公開 #へレディタリー https://t.co/2zbJCC1oQB #ホラー via @gifmagazine pic.twitter.com/ytKs5kkaIx
— 全国公開中『ヘレディタリー/継承』公式 (@hereditaryjp) 2018年11月29日
一見すると「顔芸かな・・・?」と思うほど強烈な顔のお母さん・アニー。
アニーの父親と兄は不可解な死を遂げている。自分の家族に起きた不可解な出来事から「エレンに何か秘密がある」と本能的に察したのだと思う。息子ピーターを守るために、エレンから遠ざけたアニー。
でも「ピーターを守りたい」という思いはうまく伝わらない。
劇中、昔、夢遊病のアニーがピーターにシンナーをかけ、焼き殺そうとした過去が明かされる。起きたピーターは当然「ママに殺される」としか思わない。そこから彼らの関係はギクシャクしている。
多分アニーは、エレンがピーターに何かをしようとする前に、彼を解放したかったのだと思う。アニーはエレンから家族を守るために、自分も含めて死んでしまおうとしたんじゃないかな。
劇中、アニーの夢の中でその時の様子が映し出される。「なんで殺そうとしたの」と泣く息子に「違うの!愛してるの!」と泣き叫ぶアニー。ここのシーンは本当につらい。つら過ぎてげんなりする。
血管が浮くほど力を入れて泣き叫ぶ彼女の表情とかすれ声は忘れられなくなる。
登場人物の死に様にげんなり
誰一人、安らかに死ねない描写にげんなりする。
ショッキングなのは、予告編で不気味な音を鳴らすピーターの妹・チャーリーと母・アニーだ。突発的に映し出される彼女たちの死に様は、一瞬にして肝が冷えるような不気味さに満ちている。
電柱に頭を叩きつけて死んだチャーリー。道路脇に転がったチャーリーの首に群がる蟻の描写は不快感MAXですごい。しばらく蟻が見れなくなる。
アニーは何かに取り憑かれてしまい、自分の首をワイヤーで切り始める。首に巻きつけたワイヤーの先端を交互に引くアニー。一心不乱な姿と吹き出す血にげんなりする。
誰一人、安らかに、穏やかに死なせてもらえないのでどこにも救いがない。「救いがある」と考えるのは、エレンら悪魔崇拝者だけだ。それが、もう、本当に、厭で・・・
最高の映画だ。
役者陣の演技力に脱帽
今作は
の演技がすごい映画だった。その証拠(?)が以下の写真である。
おおーい!!!めっちゃ優しい表情するやんけー!!!
出典元:Milly Shapiro & Alex Wolff: HEREDITARY - YouTube
普通の女の子と男の子やんけー!!!
監督(写真真ん中)囲んで、仲良さそうやんけー!!!
このオフショットが「ほんとなの・・・ねえ、ほんとなの・・・?」と疑わしくなるほどに恐ろしいのが『ヘレディタリー』だ。この仲の良さに惹かれて映画を観た人はげんなりしたことであろう。この明るい要素、何一つないからね!!!
グラハム家に不可解な出来事が起こる前から、チャーリーはどこか不気味だし、家族一冷静だけど、狂っていく妻を少しずつ見限っていくスティーブが繊細な演技で素敵だ。
恐怖に慄き、悲しみで泣き叫び、ものすごく情緒不安だけど家族を愛してる気持ちは伝わるアニーもすごかった。恐怖に怯えながらも、最後には変わってしまったピーターも良い。
厭な雰囲気と恐怖と気味の悪さとでめちゃくちゃ疲れる映画だけど、彼らの演技のおかげで、家族愛(でもやっぱり報われない)が感じられて、ちょっとだけ泣いちゃった。恐怖じゃなくて、家族愛に(でも報われない、それは変わらない)。
映画鑑賞後、疲れきっていた
鑑賞後、凄まじい疲労感に襲われたのには驚いた。
あまりにも厭な雰囲気が続くものだから、ビビるほど疲れていたのだ。あんなに体力を持っていかれる映画は滅多にない。
何度も映し出されるミニチュアハウスやおとぎ話のように演出されるラストシーンなど、独特の演出が受け付けないという人もいるだろう。
それでもこの作品の、”最初から仕組まれていた”逃れられない絶望を味わってほしいと思ってしまう。
ああ、厭だ。
そう思いながらじっくり観てほしい。誰も救われない絶望をぜひ。
では。
◆本日のおすすめ◆
音楽がすっげー怖いのな!!!
これであなたもエレン(祖母)と同じ。