もう1つの『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』のレビューはこちら。
レオナルド・ディカプリオとブラッド・ピットのよさは何か
クエンティン・タランティーノ監督渾身の9作目『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』。
物語、構成、画、音楽、もう何もかもが痺れるほどにかっこよく、「これが真の映画好きがつくった映画だ!」と言わんばかりの完成度だった。わたしは、この作品めっちゃ好き。
そんな『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』だが、魅力はそれだけに留まらない。
レオナルド・ディカプリオとブラッド・ピットの演技に魅了された。
日本の宣伝では「“あの”名俳優が初共演」の部分ばかりが取り上げられていたような印象もあったのだが、“あの”なんてつけるほど彼らは古い俳優じゃないし(今作品のストーリー上、あえて古い俳優扱いにしたのかもしれないが)、名ばかりの存在じゃない。
レオナルド・ディカプリオを語る
まずレオナルド・ディカプリオ。
一世を風靡した映画『タイタニック』での王子様のようなルックスばかりがもてはやされ、今の強面イケオジ状態のレオナルド・ディカプリオに触れるメディアは少ない気がする(個人の意見です)。
隙あらば「レオ様」の愛称で呼び、『タイタニック』期と最近の強面イケオジ期の画像を並べては「劣化」だの失礼な言葉が並べられる。
彼は俳優だぞ。
わたしがレオナルド・ディカプリオを好きになった瞬間は2回ある。
1つは幼いレオナルド・ディカプリオが登場する映画『ギルバート・グレイプ』。若きジョニー・デップの演技を観るつもりで観たのだが、まあ、レオナルド・ディカプリオがめちゃくちゃ目を引く映画なのだ。もちろんジョニー・デップの丁寧な心情描写も素晴らしい映画だが、奔放で愛おしいが、ジョニー演じる兄の悩みの種のひとつでもある弟を演じきっていた。
もう1つはクエンティン・タランティーノ監督作品『ジャンゴ 繋がれざる者』。主人公の元・黒人奴隷の敵役である領主を演じるのだが、白人領主対黒人奴隷の関係性からすれば「悪」だが、白人同士では一見気さくに見える、立場によって見え方が変わる男の姿を演じきっていた。
『ジャンゴ〜』でのレオナルド・ディカプリオの逸話がかっこいい。彼演じる領主が激昂するシーンで、激しく机を叩くのだが、そのとき割れたグラスの破片が手に刺さってしまう。だが彼は、手から血を流しながらも長台詞を止めなかった。
彼は演技に対して真摯なのだと思う。
そんな彼が今作で演じるリック・ダルトンは落ち目の俳優だ。自分の「俳優」としての価値に悩みながらも、プライドは捨てきれず、常に葛藤している。
台詞が覚えられない、お酒を飲みすぎて台詞を忘れてしまう、お酒のせいでそもそも調子が悪いなど、どうしようもない一面目白押しのリック・ダルトンだが、彼専属のスタントマンであり親友のクリフ・ブースの「忘れるな、お前はリック・ダルトン様だぞ」と励まされると、ちょっと元気が出てしまうのが愛おしい。
映画の話が回ってこなくて弱気になったと思ったら、ちょっとした出来事で機嫌がなおったり、9歳の新人俳優に褒められて思わず目を潤ませてしまったりと、かなり激しく一喜一憂する。
そんなリック・ダルトンの人間性を、レオナルド・ディカプリオは丁寧に読み解き、彼が「嫌われるべき人間ではない」ように演じているだろう。
そうでなければ、落ち目だけど魅力的な、愛おしいキャラクターにはならないはずだ。
ブラッド・ピットを語る
次にブラッド・ピット。
今作で彼の顔がスクリーンに映し出されるたび、彼の老いを感じた。しかしそれは全くもってネガティブなものではなく、むしろ、老いによって彼の魅力が増したように感じた。
ブラッド・ピット演じるクリフ・ブースは、リック・ダルトン専属のスタントマンだが、時代の流れとともに仕事が減ってしまう。他の共演者とのトラブルで干されたこともあり、今はリック・ダルトンの運転手、雑用係、慰め係と、文字にして並べると「仕事変えたら・・・?」と言いたくなるような仕事に変わっている。
それからリックは豪邸に住んでいるが、クリフはリック邸からだいぶ離れた場所にあるトレーラーハウスに住んでいる。映画内で登場する食事もマカロニチーズ的な、いわゆる安くてちゃっちゃと食べれる飯である。
わたしは怨恨系のドラマを見すぎたせいか、仕事が減ってはいるもののセレブなリックと、トレーラーハウスで暮らすクリフの描写を見たとき「そろそろこの2人が仲違いするシーンでも入るのかなあ」と思ってしまった。
しかしそれは全くもって勘違いだった。
クリフはリックを支え続ける。リックに「これやっといてー」と雑に頼まれごとをされるシーンだと思ったものは、長年付き合ってきたことで絶対的信頼を築いているからこそできるやりとりなのだと知った。
一喜一憂が激しいリックが立ち直る瞬間、大抵その横にはクリフがいる。専属スタントマンであり親友な彼は、肩書きだけの立ち位置を簡単に取っ払えるぐらい、信頼し合っているのだ。
で、そんな2人の姿に、ブラッド・ピットの老いが魅力として加わり、長年の関係に説得力を与えていると感じた。
リックとは違い、あまり表情を変えないクリフだが、あの淡々と雑務をこなす彼の顔に刻まれた皺が、とてつもなく魅力的に感じる。
強面オジとイケオジと化した2人が好き
失礼極まりない話だが「顔面だけ」の話をすると、わたしは「2人ともそんなにかっこいいかー?」と思っていたときがある。ほんと、失礼だけど。
でも強面イケオジなレオナルド・ディカプリオが演じることで、凄みや迫力が増す。くたびれ感のあるイケオジなブラッド・ピットが演じると、柔らかさもあるのに渋い男の色気が増す。
この2人の魅力は『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』だけに留まらないものだが、今作はそんな2人の一番魅力的な部分が、惜しげもなく露わになったような映画だと思った。
この映画に入るとき、必ずしも「クエンティン・タランティーノ監督」から入る必要はない。レオナルド・ディカプリオかブラッド・ピット、ないしは両方を目当てに来ても絶対に楽しめる。
『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』は、長いキャリアを積んだ今の2人を異様なまでに好きになれる映画であった。
では。
◆本日のおすすめ◆
年を重ねてからのレオナルド・ディカプリオ観るなら外せない
タイタニックとは全く違うストーリー展開なのがいい(別の映画だから当たり前だけど)
吸血鬼時代のブラッド・ピットもおすすめ
原題は「Killing Them Softly(優しく殺す)」。ブラッド・ピットが優しく殺す映画。