こんなに静かで、恐ろしい絶望があっただろうか。『アベンジャーズ インフィニティ・ウォー』

 

はじめに

ネタバレ全開。

ストーリーを追うようなネタバレはしないものの、「誰が死ぬ」みたいなことは平気で書くので、ネタバレNGな人は映画を観てから読むことをオススメする。

※記事の途中、映画『ウォッチメン 』のネタバレも入ってくるので、『ウォッチメン 』未見の人は読まないでね。

 

なお「はじめに」なのにいきなり余談だが、非公式サイトサノスは私を殺したかにアクセスすると、自分が

  • 生き残るか
  • 宇宙のために消滅させられるか

を知ることができる。クリックするだけでわかる。ちなみに私は死んだ。

 

アベンジャーズ インフィニティ・ウォー

あらすじ

6つすべてを手に入れると世界を滅ぼす無限大の力を得るインフィニティ・ストーン。その究極の力を秘めた石を狙う“最凶”にして最悪の敵<ラスボス>サノスを倒すため、アイアンマン、キャプテン・アメリカスパイダーマンら最強ヒーローチーム“アベンジャーズ”が集結。人類の命運をかけた壮絶なバトルの幕が開ける。果たして、彼らは人類を救えるのか? 
引用元:作品情報|アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー|マーベル公式

 

サノスの恐ろしさ

(↑)当然のことながら、映画に登場するサノスはこんな可愛くない。モリッモリッのごついおっさんだし、でかい。

 

あのハルクが・・・

サノスに対し「チートかよ!!!」とツッコミを入れたくなるほど絶望的な強さだということを表現するのに十分だったのが、映画冒頭のシーンである。

 

今作は一応マーベル映画時系列的に『マイティ・ソー バトルロイヤル 』の続きに位置する。アズガルドから脱出し、安息の地を求めていた民が皆殺しにされているシーンから映画が始まり、もうゾクゾクする。

ロキもソーも、人より丈夫な「神」でありながら歯が立たない。そこで切り札として登場するのが緑の巨人・ハルクである。『アベンジャーズ』シリーズで「めちゃくちゃ強いが扱いづらい」という立ち位置だった彼が出てくれば、安心・・・

かと思いきや、サノスは巨大なハルクをいとも簡単にボッコボコにする

 

その後、『マイティ・ソー バトルロイヤル 』で若干知能を身につけたハルクは、はじめて経験した「負け」に恐怖を覚えたのか、バナー博士が呼び出そうとしても変身しようとしない。サノスは最強だったものを平気で上回る強さなのだ

 

「呆気ない」という恐怖

ネタバレ全開の記事なので言ってしまうと、インフィニティ・ストーンを全て手に入れたサノスは、石の力を稼働させるガントレットを作動させ、いとも簡単に指をパチンと鳴らす。鳴らした瞬間、全宇宙の生命の半分が消滅する

 

この「呆気なさ」ほど恐ろしいものはないと思った

だって「指パッチン」だけなのだから。神々しい儀式も必要ない。ただ集めた石の力を借りて指を鳴らすだけ。

今までの『アベンジャーズ』シリーズは「世界が危機に見舞われても、ヒーローがなんとかしてくれる」感に溢れていた。それもそうだ、娯楽映画だし。ただ今回は話が違う。まじで生命が半分消滅しちゃう。防ぎようのない結果に、唖然とする

 

「呆気ない」シーンの演出が静かなのが、また恐怖を煽る

鳴らした後、サノスだけが「インフィニティ・ストーンを作動させた人だけいける世界」のような場所へ行く。愛しい娘(石を手に入れるために殺した)と再開し、言葉を交わすサノス。

その後、指パッチンした世界(現実)に戻ってきたサノスのガントレットは黒く焦げついている。インフィニティ・ストーンの力が実行されたのだ。サノスを押さえつけていたソーは、黒く焦げついた手元が目に入った瞬間、「一体何をした!!!」と叫ぶ。

 

次の瞬間、人がランダムに消滅していく。

この画は、思い返すとじわじわ怖い。

 

絶対悪に感じられない恐怖

サノスの恐ろしさは力だけでない。彼が彼自身の信念を貫いて行動していることで、絶対悪に感じられないのが怖かった

「平和のための戦争」の思想に近い気がするのだ

「人が増えすぎて、飢餓や争いが増えた。だから半分減らす」は減らされる側にしてみればいい迷惑この上ないが、「あれ?人ってこの発想で、実際色々減らしてない?」って思ったりして。

 

彼は彼なりの平和のために行動している。

いく先々の星で人々を半滅ないしは全滅させ、星を浄化しているつもりなのだろう。殺される側にしてみれば、殺される時点で最悪の出来事だが、サノスに賛同する人々が皆無ではないあたり、絶対悪の対象にすることができない

 

なお「絶対悪に感じられない恐怖」をはじめて知ったのは、映画『ウォッチメン

ウォッチメン 』では最後、オジマンディアスという元・ヒーローが「核戦争」を起こさないために、人間を超越した存在となったDr.マンハッタンを人類の敵に仕立て上げ、人々を殺す。

彼の言い分は「核戦争を止めるためには、手段を選ばない」である。核戦争により何万人、何億人という命が失われる前に、「共通の敵」をつくり、戦争を止めるべきだと。そのために、Dr.マンハッタンに爆発を起こさせ、数百万人の命を奪う。

失われた数百万人にとって、この事実は絶対的に悪なのだが、この結果オジマンディアスの思惑通り「核戦争」は防ぐことができる。彼は罪を背負い、極地で1人生涯を終えると決める。彼に対するこの複雑な感情。サノスにも同様のものを感じた。

 

ヒーロー大集合映画なのに破綻しない

アベンジャーズシリーズは(というかマーベル映画)は欠かさず見ているが、前2作は「ヒーロー大集合」の個性が強すぎて、胃もたれした印象がある。しかし今作では、前2作を上回る登場人物の多さにも関わらず、映画が破綻しなかった。なぜだろう。

 

テーマの一貫性

例えばわたしが感じたのは、

  • 最強の悪に立ち向かう
  • 大切な人・ものを守りたい

この2つの主軸がしっかりしていたからこそ、登場人物がめちゃくちゃ出てきても、物語を終えたのだと思っている。

物語のテーマは「サノスに立ち向かう人々」。映画としてのテーマは「大切な人・ものを守りたい」といった感じで、全員が同じものを抱いて戦っていたから、混乱せずに観れたのではないかと。 

 

特に映画のテーマなのでは?と考えている「大切な人・もの」は重きを置かれていて、最強の悪であるサノスでさえ、「宇宙の均衡」「愛おしい娘」という2つの大切なものに挟まれて苦悩するのだ。宿敵ですら、苦悩するのだ。

 

主要キャラがあっけなく

映画を面白くするものの一つは「圧倒的絶望」だと思っている。「圧倒的絶望」があるから、映画の流れが面白くなる。

ちなみに、個人的に「絶望パネェ!!!」となった映画には

などがある。

 

そして今作の「圧倒的絶望」は、ヒーローの主要メンバーがあっけなく消滅するところにある

リーダー格であるキャプテン・アメリカとアイアンマンは、話の都合上生き残っているが、新規参入したドクター・ストレンジスパイダーマンブラックパンサーはさらりと消滅した。そこが良い!!!

「NEWキャラだから生き残るだろう・・・」みたいなことを考える間もなく、サノスの指パッチンによってランダムに消えいく者たち。ヒーローも例外ではないところが、良い絶望感を演出していた

 

ドクター・ストレンジスパイダーマン

なお消滅する際の演技で、一番「たまんね〜」となったのがドクター・ストレンジスパイダーマンである。

最年少ヒーローで新規参入を果たしたスパイダーマン

消滅する際のパニックっぷりがめちゃくちゃリアルである。尊敬するアイアンマンにすがりつき「死にたくない」と泣くスパイダーマンの姿は、指パッチンの恐ろしさを演出するには十分すぎる力をもつ。

 

一方で、時空を超える能力もあるドクター・ストレンジは、140万通り(だった気がする)もの未来を見る中で、たった1つだけあったサノスを倒す方法を伝授するも、結局消滅する。

ただその際の台詞が実に彼らしい。消滅せずに済んだアイアンマンに向かって、

 

「これが最適な方法だった」※

 

と告げ、消えていく。わたしは、ドクター・ストレンジが「生命の半分が消滅する未来しかない」とわかったうえで、希望を託すことができるメンツだけが生き残る未来を実行したのではないかと考えている。だとすれば尊い。尊すぎるよ、博士!!!

 

※明確な台詞ではございません。映画の台詞を全て暗記することができないので、ニュアンスで捉えてくださいまし。

 

続編観るに決まってんじゃない!!!

映画館で今作を鑑賞後、変なため息が出た。自分でも驚くほど興奮していた。

思えば、今作を観たときの映画館の環境も良かった。各シーンで何かが起きる度、観客が一体になって「おお〜」とか「ああ〜」という声を漏らしてしまう、そんな回だった。見知らぬ他人同士で一体になれる映画なんて早々ない

アベンジャーズ インフィニティ・ウォー」はそれをやってのけた。

 

とにかく、宿敵・サノスがやらかした絶望は、あまりにも静かで恐ろしかった。今まで観てきた絶望の中で、ダントツで怖い。あっけなくて怖い。娯楽映画だと分かっていても、もっとも起きてほしくない絶望だった。ものすごく心に突き刺さる映画だった。

ヒーロー映画だからといってナメちゃいけない。

胸えぐられるよ。

では。

 

◆本日のおすすめ◆

最後の最後に、へなへなになる可愛いヒーローを紹介。

「ちょっこりさん」ていうシリーズのぬいぐるみ。アイアンマンが可愛いという矛盾。