ご紹介する映画について、一部ネタバレあり。
今作をまだ観ていない人に向けて、「あ、やっぱ観てみようかな」と思えるようなレビューを目指しているが、鑑賞後感じた魅力を伝えるために一部ネタバレがある。
「映画鑑賞前のネタバレ絶対NG」な人は、映画鑑賞後にぜひお越しを。
鬼才ラース・フォン・トリアーとは
デンマークの映画監督。コペンハーゲン出身出身。ドグマ95という映画の方法論に大きく関与しているが、その他にも様々なスタイルの映画で知られ、1980年代以降デンマークの映画界に対する他国の関心を高めた中心人物だと見なされている。
ラース・フォン・トリアーの映画と言えば、
- 過激な性描写
- 人をどん底に突き落とすような描写
- 超・陰鬱
が特徴だ。とことん人を突き落とす彼の作品は、時々非常に嫌な思いをする羽目になるのだが、それでもなんだか追ってしまうのでわたしにとっては魅力的な監督のひとりである。
彼の作品には「〇〇三部作」と呼ばれる作品が多く、代表的なものには
が挙げられる。黄金の心三部作のコンセプトは、「困難な状況下でも純粋な心を保ち続ける女性が主人公」とのことだ。にしたって、わたしは『奇跡の海』だけはなんか嫌だ笑。
おすすめ陰鬱映画3選
(↑)初期監督作品集の存在をはじめて知ったわたし・・・
ダンサー・イン・ザ・ダーク
「落ち込む映画」「鬱映画」と言えば外せない存在となっている『ダンサー・イン・ザ・ダーク』。今作を陰鬱映画から外すわけにはいかなかった。わたしはこの物語を「とても美しい」と感じているが、断じて「心が晴れやかになる映画」ではない。
物語はビョーク演じるセルマの人生を描くものだが、はじめっから何一つ順風満帆ではない。
セルマは視力を徐々に失いつつあり、大切な息子も同じ病気に侵されている。彼の治療費を貯めるため、懸命に働くセルマだが、彼女の病状が生活を圧迫していく。彼女が大好きなミュージカルの世界だけが救いだが、それは決して現実ではない。
ビョークの歌声があまりにも美しいので見惚れてしまうのだが、観客の心が穏やかになった瞬間に現実に引き戻される。現実は厳しい。厳しいどころか、これでもかというほど彼女を不幸に追い込んでいく。
独房で彼女が歌う「フェイバリット・シングス」や「107 steps」「New world」の美しさは、映画のラストシーンの描写と相まって、あなたの心を全力で抉る。
陰鬱な世界にどっぷりと浸りたいのなら、ぜひ観てほしい。
(↑)サントラも美しいのでぜひ。
ドッグヴィル
ラストシーンを観て「心が晴れ晴れする」と感じる人も多いだろう。わたし自身、『ドッグヴィル』のラストシーンで心を晴らしたいが故に、映画序盤〜終盤にかけての陰鬱なシーンの連続を耐えている節がある。
しかし書いた通り、ラストシーンを除いてはずっと陰鬱だ。
閉鎖的な村にグレースという女性がギャングに追われて逃げ込んでくる。グレースというよそ者を快く思わない村人に対し、匿ってもらうために必死に村人に好かれようと距離を縮めるグレース。そんな彼女に、閉鎖的な村ならではの悲劇が襲う物語だ。
よそ者に対する訝しげな視線。グレースが警察に手配されていることで今までの振る舞いをガラッと変える人々の態度。人が簡単に立場を変えて、人を追い詰める様子がジリジリと描かれる。目を背けたくなるような描写もある。正直本当に嫌になる。
ラストシーンだって、心が本当に晴れやかになるラストではない。
わだかまりは残ったままだし、誰ひとり救われない。
人の愚かさを感じたい人におすすめの映画だ。
(↑)なお撮影の裏側もドロドロすぎるので、そちらにも注目していただきたい。
アンチクライスト
性行為への嫌悪感が全力で表現されていると言っても過言ではない映画。というか、ラース・フォン・トリアーに一体何が起きたのかと全力で不安になる映画だった(この時期、ラース・フォン・トリアーはうつ病だったと聞く)。
とある夫婦が性行為をしている最中に、幼い息子が窓から落ちて死んだ。精神を病んだ妻を救いたいセラピストの夫は、森の中で彼女を癒そうとするが、それが悲劇の始まりだった。
嫌悪感を抱くような性描写か、とんでもなく痛いシーンか、気味の悪い動物が現れるシーンか、そんな印象しかない。本気で悪夢のような映画である。
しかし不謹慎にも、全力の嫌悪感がだんだんと美しく見え始め、妻の狂気すらラース・フォン・トリアー作品の中で最上級の美しさに見えるから怖い。これはわたしが女性だからだろうか。
とにもかくにも、今作を鑑賞した男性は悶絶間違いなしである。
カップルや夫婦で観るのはおすすめできない(今作でよりいっそう愛を深めることができたら、それはそれですごいと思う)。
(↑)パンフレットがもう全力で狂気。
劇薬映画、猛毒監督とも言える
以下で紹介する「◆本日のおすすめ+α◆」に記載されている映画もランキングに入れたかったのだが、ラース・フォン・トリアーを知らない人に陰鬱映画を勧めるとすれば、上記3つが適していると考えた。
どれも美しく、
残酷で、
最低で、
最高の映画だ。
なお最後にアドバイスする。
わたしは時々、大好きな監督作品を連続して観る「〇〇監督作品祭」を自主的に行なっているのだが、「ラース・フォン・トリアー監督作品祭」は正直おすすめしない。
映画上映時間が長いというのも理由のひとつだが、健康な人がそこまで精神的に追い込む必要はないと思う。
もし連続して楽しむ場合には、いつも以上に気分がハイな時に始めることをおすすめする。そして無理はしないこと。
では。
◆本日のおすすめ+α◆
キルスティン・ダンストの重度の鬱病患者役は必見。ラストシーンは不謹慎にも綺麗!
監督作品の中で「コメディ」より(?)の一作。
男性が嫌いになりかけました。