まず人前で泣かない男(夫)が、映画開始5分で「・・・しんど」と目を潤ませてしまった伝説の映画。
それが「プーと大人になった僕」である。
※ネタバレあり
プーと大人になった僕
ちなみに注目していただきたいのは「プーと大人になった僕」なんてほんわか系のタイトルをつけたのは日本だけだということだ。
原題は「Christopher Robin」。
そうプーさんは脇役で、主役は大人になったクリストファー・ロビンなのだ。ここでお気づきの方もいるかもしれないが、この映画はほんわか系の映画じゃない。お忘れなく。
あらすじ
少年クリストファー・ロビンが、“100エーカーの森”に住む親友のくまのプーや仲間たちと別れてから長い年月が経った──
大人になったクリストファー・ロビンは、妻のイヴリンと娘のマデリンと共にロンドンで暮らし、 仕事中心の忙しい毎日を送っていた。ある日クリスファー・ロビンは、家族と実家で過ごす予定にしていた週末に、仕事を任されてしまう。会社から託された難題と家族の問題に悩むクリストファー・ロビン。そんな折、彼の前にかつての親友プーが現れる。
”変わらないプーと変わってしまったクリストファー・ロビン”ってのが、この物語の主軸。
プーサイドのストーリー展開は、ちゃんとほんわかしている。というか、ヘナヘナになる。どうしようもなさすぎて笑。
一方でクリストファー・ロビン目線に立ち、物語を観ていると、涙腺が崩壊する。物語自体がめっちゃ泣けるわけではない。むしろ終始ヘナヘナになる展開なのに、なぜだかぐわっと目頭が熱くなる。
別れの描写がツラい
映画冒頭、描かれるのはまだ幼いクリストファー・ロビンとプー(そして仲間たち)との別れのシーンである。プーたちはお別れの概念がまだ理解できていないように見える。若きクリストファーの表情はすでにどこか大人びていて、愛おしそうに彼らを見つめる。
プーに対して「僕はこれから”何もしない”ができなくなる」と漏らすクリストファー。2人の間で交わされた約束はこうだ。
- プーは”何もしない”を毎日やること
- クリストファーはプーを忘れないこと
この約束を交わし、クリストファーは一気に現実の世界へ引き戻される。
寄宿学校へ通うようになったクリストファー。プーの落書きを教師に叱咤されたり、父親を亡くす描写が入ったりと、雲行きが怪しくなる。青年になった彼の回想シーンでは、ディズニーにしては珍しく、ゴリゴリの戦争描写まで導入される。
一方プーは「いつかクリストファーがまた遊びに来てくれるはず」と来る日も来る日も彼を待ち続ける。
この背中、悶絶級である。
「クリストファーじゃなくてわたしじゃダメですかー??!!」ってぐらい抱きしめたくなる寂しさ。心はメタメタ。
ユアン・マクレガーのくたびれ描写がツラい
がっつり青年になったクリストファー・ロビン。めっちゃくちゃ働き盛りの普通のおっさんに大変身する。ユアン・マクレガーが「家族のために仕事を頑張りすぎちゃって、家族から『寂しいんですけど?』って目で見られちゃうお父さん」を演じている。
このくたびれたパパの顔が、本当にくたびれていてツラい。
お父さんは良かれと思ってバリバリ働いているのだが、奥さんや娘は「一緒に過ごす時間がほしい」と考えている。
大人になった”わたし”は、働きまくる父親の心情もわからなくはないのだが、わたしも幼かった頃は
- 父親が早く帰ってくること
- 家族で一緒に過ごすこと
をとても強く望んでいたことを思い出す。
パパになったクリストファー・ロビンも、決して家族との時間を投げうちたいわけではない。が、仕事をしなければ生活できないのだ。加えて彼は従業員から慕われる、結構上の役職ゆえヘマができない。
大ピンチなパパの描写に、心はメタメタ。
プーだけがクリストファー・ロビンの心情を察している
大ピンチなパパ・ロビンの前に現れるプー。しかしクリストファー・ロビンと違って”変わらないプー”は、そのマイペースさでクリストファーの心を苛立たせてしまう。(クリストファー「何やってんだよ、もー!!!」)
だが劇中、クリストファーが再び他の仲間たちと出会った時に察した。
ピグレットやイーヨー、ティガーのキャラクターはてんで変わっておらず、基本的には自分のことしか考えていない。
しかしプーは、クリストファーの存在ありきの行動を起こすのだ。
かつて”何もしない”を約束したクリストファー・ロビンが、”何もしない”プーに苛立ちを見せた時点で、プーはクリストファーが変わってしまったことを察したのだと思う。
だからこそ、プーはクリストファーに寄り添う。
彼が忘れてしまった本当に「大切なモノ」探しに、全力で付き合うのだ。
クリストファーがどんなに苛立っても、プーはスタンスを変えない。そういうキャラクター設定なので、そりゃそうなのだが・・・それにしたって、あそこまで助けを求めている人に寄り添える人(ぬいぐるみ?)はいないだろう。
プーの変わらない優しさに、心はメタメタ。
精神状態が不安定な人には見せられない
もちろんね、この映画にはいくつかのツッコミどころがある。クリストファー・ロビンが解決する仕事の代替案とか、ラストシーンとか、さらりとしすぎている演出などなど、映画として100点満点かというとそうでもない。
だけど、確実に1シーン1シーンが心に残り続ける。ほろ苦さを感じるストーリー展開は、心にずっと残り続ける。ふとした瞬間に思い出しては、ぐわっと泣きそうになる。なかなか破壊力抜群の映画だ。
なので、精神状態が不安定な人には見せられない。
我が夫は「うつ状態の時に、イッツ・ア・スモールワールドはキツい」という話をよくしてくれるのだが、この映画はまさにそんな感じだ。
”感じすぎる”人は、心が穏やかになってから鑑賞することをおすすめする。また何一つ”感じない”人にも、この映画はおすすめできない。多分つまらないから。心がメタメタにされても、まあまあ心を落ち着かせられる人にしか観れない映画だ。「それって映画として大丈夫か?」とも思うが、油断できない。
最後に。
物語を無視して、動くぬいぐるみのホワッホワっぷりに悶絶するのであれば、全員にすすめたいです。
では。
◆本日のおすすめ◆
ホワッホワ。