悪用禁止な「人たらし」の手口。佐藤優『悪の処世術』(宝島社・2023年)

悪の処世術 (宝島SUGOI文庫)

恥を忍んで言うと、歴史の教科書や近代史で度々目にする各国の権力者、独裁者のことを、私はよく知らない。覚えているのは名前ばかりで、どこの誰か、何をしたのか、なぜ「悪」とされるのか、それを知らなかった。だから、それを知るために読んだ。

加えて、帯に書かれた言葉に惹かれた。

  • なぜ「悪」はカリスマになるのか
  • 独裁者たちの「人たらし」の手口

「悪」も「善」も使いようによって変化するものである。2月23日で紹介した紀藤正樹議論の極意 どんな相手にも言い負かされない30の鉄則』(SBクリエイティブ・2023年) でも、議論のテクニックが、使い方次第で洗脳のテクニックにも変わってしまう注意点が記されていた。

悪用する気はないことを先に示した上で、「『人たらし』の手口」を知りたくて購入したふしがある。

 

まず、ものすごく単純な感想だが、めちゃくちゃ面白かった。

紹介されている独裁者はみな、それぞれ自分の信念にしたがって突き進んだ結果、独裁者となった。独裁者になろう、と思って独裁者になるのではない。もちろん、側近など周囲の人間関係の影響や各国の宗教観も大きく影響しているが、誰も自分が「悪」だなと思っていない。

考えてみれば当たり前のことだとも思うが、「正義」や「平和」を望み、「悪」になる人の姿は生々しく、独裁者も1人の人間であることが分かる。読んでいて痺れた。

 

第九章「ヨシフ・スターリン」が印象に残っている。

今まさに起きているロシアによるウクライナ侵攻、昨今日本の思想家(斎藤幸平)が書籍を出すなどして話題になっているマルクス主義などに関心があるから、余計に気になった。

この章で、人々が社会への不安から独裁体制に甘んじる可能性があると知り、恐ろしくなった。

脳科学に関する論文がすぐに出てこなくて申し訳ないのだが、ヒトは楽な方へと進んでいくものだ。不安によって考える余裕がなくなり、誰かが決めてくれればそれでいいと思うようになるのだろう。〇〇主義の〇〇部分が何であれ、多分、それは変わらない。だから怖かった。

スターリンによる「血の粛清」について、このような1文がある。

個人的怨恨や嗜虐的趣味などで弾圧と粛清を繰り返したのではない。あくまでも社会の意識を操作し、社会主義体制の下でソ連を維持するための手段としての弾圧だった。

引用元:佐藤優『悪の処世術』p.234(宝島社・2023年)

またスターリンの周囲では、密告社会が築き上げられた。彼の周囲の人間は、自分に都合の悪い人間を密告することで、地位を固めていたという。

著者はこのことについて、何もスターリン体制下でのみ起こることではない、どの国においても組織の体質は基本的に変わらないと述べている。

どの組織でも起こりうる状況だということは、今この瞬間にもどこかでじわじわと、独裁体制への基礎が作り上げられている可能性があるのではないか。

スターリンも、その周囲の人間も、自分と何ら変わらない1人の人間だと気づくと同時に、極端な話、独裁の芽は自分自身にもあるのだと思った。独裁体制や極端な思想が膨れ上がる基盤はどこにでもあるのだ。

なお、第一章ウラジーミル・プーチン、第二章習近平、を読んでおくと彼らの考えについての1つの視点が得られるので、ロシアや中国の情勢や動きが理解しやすくなると思った。

 

国際社会への理解を深めるのに役立てたい1冊。

各章の終わりには、著者による主張や問いかけが記されている。何度も何度も読み返して、主張や問いかけに自分なりの回答を導き出せるようにしたいと思った。

「『人たらし』の手口」としての利用は、必要になった時に活用させてもらう。