現代にも続く闇。NHK「フランケンシュタインの誘惑」制作班『闇に魅入られた科学者たち』(宝島社・2023年)

闇に魅入られた科学者たち 人体実験は何を生んだのか (宝島SUGOI文庫)

フランケンシュタインの誘惑」(NHK総合)で、“積極的安楽死”の回を見た事がある。ジャック・キボキアン、通称「ドクター・デス」は生涯に130人余の患者の自殺ほう助を行った人物だ。

読んでいる最中だが宮下洋一『安楽死を遂げた日本人』(小学館、2019年)という本が考えさせるように、安楽死を巡る状況は複雑である。

しかしいずれにせよ「死人に口なし」。ドクター・デスによって安楽死させられた人にとって、その死が幸か不幸かなど知る由もない。

「ドクター・デス」の行為を「闇」と捉える人は少なくないと思うが、生きていられないと思うほどの苦しみを味わう人にとって、果たして死は恐怖の対象なのか。

 

フランケンシュタインの誘惑」が書籍化された。5人の科学者の話が掲載されている。5人の科学者が行ったことは狂気や悪と捉えることができるが、一方で、現代の科学発展に貢献しているものもある。

たとえば第1章の外科医・解剖学者ジョン・ハンター。通称「切り裂きハンター」。ハンターは、墓を暴いては遺体を切り刻み、実験を繰り返した解剖マニアだが、彼の狂気じみた解剖への熱がなければ、医療の発展は遅れていたように思う。

 

とはいえ、「闇」が現代にもそのまま続いているような事例もある。読み進めていた時、ホラー小説を読んでいるかのような恐怖に襲われた。

第2章、“断種法”を打ち出した人類遺伝学者オトマール・フォン・フェアシュアー。第2章の主となる話はナチス政権下における話だが、どの国にも「優生思想」があったことに背中がヒヤリとする。

そして読んでいくうちに「あれ?」と思う。

現代にも優生思想は潜んでいやしないか。

それはきちんと後半に記されている。“出生前検査”である。

フェアシュアーの恐ろしさは、ナチス政権下で、本来の優生学の考え方を変質させ、“社会にとって価値がないと見なした者を任意に「安楽死」させ”たことである。これも十分グロテスクだ。

だが、本来の優生学(本文中より“自然淘汰によって行われる適者生存のメカニズムを人為的に代替し、遺伝的に劣勢な形質を持った者が「生まれてこない」ように処置する”)と現代の出生前検査で行われる、染色体異常の可能性が見つかった胎児の中絶に、違いはあるのだろうか。

 

ロボトミー、国家ぐるみのドーピング、スタンフォード監獄実験。この本に掲載されている出来事はいずれも人間の闇ともいえる過去だ。けれど、現代の科学や科学者たちの存在が闇ではない、という確証はない。