書評というよりライター心得。印南敦史『書評の仕事』(ワニブックス・2020年)

書評の仕事 (ワニブックスPLUS新書)

この本は1日で読み終えることができる。なぜなら、著者が本の中で語っていることが文字通り表現されているからである。

書きたいことを書いているからこそ、著者の人柄が内容から伝わってくる。伝わるように書いているからこそ、書評を書くうえで真に大切なことは何かが伝わってくる。文体にリズム感があるから、読み進めやすい。

 

購入前、Amazonのレビューを眺めていた時、この本に関する否定的な意見が興味深かった。共通して見受けられたのは、これは著者の「自慢」であるといった文言だ。好き好んで自慢話を読む気にはなれなかったが、たまたま本屋でこの本を見つけることができたので購入し、読んだ。

読了後の今、低評価をつけた人の言わんとすることもわかる。

 

私は最近「書評」という仕事に興味があり、「書評を書くうえでのルールとかを知れるかしらん」とノウハウ本のつもりで手に取った。

「書評の仕事」というタイトル、“秘密も技術も大公開”という帯の文言から、ノウハウ本だと思い込んでいたが、実際にはノウハウ本の形はしていない。

書評家の仕事の様子などは記されているが、どちらというと著者が「書評」の仕事をしているだけで、この本はライター全般の心得について書かれたものと説明したい。そのため、書評だけに興味がある場合には、やや肩透かしをくらうことを伝えたい。

 

とはいえ、このブログを書き始めた頃(2016〜2017年頃)からライターをしている私が初心に返ることのできる良本ではあった。文章と媒体と読者に、誠実に向き合うことの大切さがこの本には書かれている。

 

ライターを目指す人、すでに文筆業を営んでいる人で、書く技術を向上させたいと思っている人が読むべきは、「第3章 年500冊の書評から得た技術」以降である。

著者が示す通り、“「本音」や「気持ち」を隠さない”ものを作り上げながら、“個”を強調しない(媒体にもよるが、“自分”を出しすぎない)ことで、その人らしい文章でありながらも、読者が求める文章の提供につながる。

これは、実際に書いてみないと実感できないことではあるが、「文章を書いて読まれたい!」と強く願う人ほど難しい技術である。

 

先で紹介したAmazonの低評価レビューにある通り、著者の文体や語り口がどうにも気に食わないという人はいるだろう。書き手も読み手も人間だ。得手不得手があれば、好き嫌いもある。

「書評」という仕事に特化したい人には、また別の本が適しているように思うが、「ライターになりたい」という人にとっては必読書になりうる。特に、媒体が求める文体に対して、自我が強すぎる人には必読書といえる。