スマホと少しのお別れ。カル・ニューポート『デジタル・ミニマリスト スマホに依存しない生き方』(早川書房・2021年)

デジタル・ミニマリスト スマホに依存しない生き方 (ハヤカワ文庫NF)

冒頭から衝撃的だった。

かつてエンジニアとしてグーグルに勤務していたトリスタン・ハリス氏の言葉だ。

「(テクノロジーは)中立ではありません。ユーザーに一定の方法で長時間使わせることを目的としています。企業はそこから利益を得ているわけですから」

考えてみれば、利益を得るためのあの手この手が、テクノロジーに限らず、提供されている「商品」には張り巡らされているものだ。

けれど、スマホは巧みに人の生活に入り込み、依存症に追い込むほどの仕組みをもって人を取り込み続けるのだと知った。

 

私がこの本を手に取ったのは、自分のスマホ中毒から逃れたくなったからである。

この本の良いところは、スマホ依存の正体を明らかにし、スマホから離れる手立てについて丁寧に解説した後、「演習」と題してその方法が記されているところだ。段階をふんで、スマホから離れる生活を実践できる。

この読書録※も、きっかけのきっかけはこの本と言っても過言ではない。スマホをいじる以上に大事な時間をもたらしてくれたから。

 

第4章「一人で過ごす時間を持とう」や第5章「“いいね”をしない」では、人間らしさを取り戻す感覚が得られた。

特に第5章に登場する「会話を取り戻そう」では、旧来のアナログなコミュニケーションが持つ力(他者ときちんと向き合うことで聞く力を養ったり、共感する力を身につけたりすること)の素晴らしさを改めて感じさせてくれる。

“いいね”をつける・つけられる、がいかに浅い行為か思い知らされる。実際、私は1度、知人がSNSの投稿に真剣に目を向けるでもなく、私と会話しながら惰性的に“いいね”をつけまくっているのを見たことがある。

“いいね”をする・しないで不安になるぐらいなら、実際会って話して向き合ってみたら?とこの本は訴える。

 

昨年、この本を読了後、私は、第7章「SNSアプリを全部消そう」を実践した。

X(旧Twitter)をやめたが、生活には何の影響もなかった。Instagramは画家活動の営業ツールとして完全にはやめていないが、活動がない時にはスマホからアプリを消している。こちらもやはり、何も影響がない。

仕事のやりとり等である程度は必要なため、スマホを持たない、は現時点では現実的でないかもしれないが、いつかスマホごと手放せる日が来たらと思っている。多分、思っている以上に、これまた何も影響がないのだろうな。

 

※ブログに読書録を公開しているが、パソコンを使って文章を打ち込む前に、新潮文庫が販売する「ほんのきろく」という読書ノートに手書きで読書録をつける習慣を始めた。パソコンやスマホから離れる時間を増やすべく、一部の書き仕事でも「手書きで原稿を書く→パソコンに打ち込む→納品する」という流れを作っている。手間はかかるし、利き手が痛くなるが、頭は冴える。