『孤独な死体』を読んだ。死体は真実を語る。法医学から見た日本の今。

こんにちは、齋藤吐夢です。

つい最近読了した本が面白かったので、その本のレビューを書きます。タイトルは『孤独な死体ー法医学で読み解く日本の今ー』。

 

法医学者・上野正彦氏が、死体から”今”を読み解きます

 

 

孤独な死体

www.poplar.co.jp

この本を手に取った理由は(このブログを読んでくださっている人は聞き飽きているかもしれないけれど笑)私が”死”に対して興味を抱いているからであって。

(↓)過去記事

www.tomutomu-corp.com

法医学や監察医、病理医助手等々、死や死に追いやる病に関わる仕事に興味があるからこそ手に取ったのであって。読んでみたら、ものすごく考えさせられました。

 

本の概要

今こそ死体の声に耳を傾けてほしい

誰よりも死体と向き合い、死から生を見つめてきた孤高の法医学者・上野正彦。いじめによる自殺、虐待、介護殺人、過労死・・・現代の日本の暗黒面を象徴するようなこれらの死に、稀代の法医学者が挑む。社会から阻害され、孤独に死んでいった死体たちは、私たちに何を語るのか。そして私たちはそこから何を学ばなければいけないのか。社会に殺されないための命の書がここに誕生。

引用元:上野正彦,2014,「(022)孤独な死体」,ポプラ社

2014年に刊行されたポプラ新書。現在2018年ですから、少々前のお話ですね。

何が悲しいって、ここで描かれている”日本の暗黒面”が少しも解消されているように思えないことです。 

 

読んだ感想

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興味がある職業だからこそ、読み始めた内容なのだけれど、読んでみると心が苦しくなるような内容もありました

私はやはり、どこか”死”を「死んでしまったのだから終わりじゃないか」とも思うのですが、死ぬ直前に人が何を思うのかは、生きている私にはどうしても分からない

 

そんな彼らのことを思い、真実を突き止めようとする上野さんの真摯さ、必見です。

 

法医学者が向き合う死の裏側

この本で出てくる事例のほとんどが、報告された死因と違います。

「事故が起きて死んだ」と報告された子供の死体、実際には育児ノイローゼになった母親が殺めてしまった真実が明かされる。実際には自殺して亡くなった老人、その家族は世間体を気にし、自殺の証拠を隠し「朝になったら死んでいた」と伝える。

 

監察医である彼は、死の真相を知るために、目の前の死体から真実を探し出していきます。言うなれば彼らはプロなので、例え加害者がどんなに工作しても、”嘘をつかない”死体のおかげで真実が明かされていくのです。

 

そしてなぜか、その都度切ない

 

物言わぬ死体ほど真実を語る

絞殺死体に残る痕だけでも、地面に対して水平に跡が残っているのか、耳の後ろに繋がるようにして残っているのかだけで、自殺か他殺かが分かる。殺害後、放火して証拠を隠滅しようとしても、解剖により、放火前に死んだか否かが分かってしまう。

 

死体は死んでしまった体だし、もう蘇ることはない。死んでしまうということは、脳・心臓・肺の機能が停止すること、と書いてあります。

が、彼らは物言わぬ存在にも関わらず、真実を生きているものに語ってくれるのです。

 

この本には、子供の自殺、高齢者の死、過労死、殺人について書かれているんですが、どの話も、死体だけが真実を語る。結構悲しいことですが、だからこそ起こり得る事件や事故の火種を消すことができるんです。

 

監察医制度がないとどうなるか

もしも、学校の中で事件や事故が起こって死体が発見されたら、それは変死体として扱われるので、警察は学校に入って捜査を行い、医師が検死をする。ただし今、日本で監察医制度は、東京、横浜、名古屋、大阪、神戸の五大都市だけにしかない。中でも監察医務院という独立した施設を持ち、完全に実施しているのは東京だけだ。

引用元:上野正彦,2014,「(022)孤独な死体」,ポプラ社

監察医制度のない地域では、警察の嘱託医が検死に向かいます

けれども彼らの本業は”生きている”人の診療であるため、正しい判断ができないこともある。真実を知るためには、やはり死体を専門とする監察医、彼らの存在が必要になるということです。

 

が現在、法医学者の数は、少ないと言われている獣医師の数よりも少ない

www.excite.co.jp

「解剖医の数が少なくて手が足りない」という現状があるのです。

 

本の中でも繰り返し説かれていますが、”法医学は予防医学。真実を語る死体によって、生きている人が不慮の死から逃れられる可能性が高まる。監察医、法医学者の必要性を知ることにもなりました。

 

書く・伝える勉強にもなった

最後に、法医学・監察医・死というキーワードとはちょっと違う観点で感動したことを一つ。この本、ものすごくスラスラと読めます。文章力・発信力を鍛えたい人にもおすすめな本です。

 

やはり人の生死を科学的に見ていくお仕事ですから、生化学的な内容も組み込まれています。が、どれも理解しやすく、読みやすい。

お尻を叩く暴力は、行きすぎれば命取りになることさえある。

お尻というのは柔らかいので、皮下脂肪がたくさんついていると思うかもしれないが、実際には筋肉がしっかりついていて、体を支える役割をしている。

お尻を強く蹴ったり、何かで叩いたりしたとき、この筋肉の細胞が損傷を受けて、組織が挫滅し壊死すると、壊死した筋細胞からミオグロビン、カリウム、乳酸などが大量に発生し血中に吸収される。これをクラッシュ・シンドローム(挫滅症候群)と言い、意識の混濁や失禁、チアノーゼなどが起こるのである。

引用元:上野正彦,2014,「(022)孤独な死体」,ポプラ社

ネットニュースか何かで、お正月におなじみの「笑ってはいけないシリーズ」の”ケツバット”が危ないという話題を耳にしたことがありますが、この本でその理由をわかりやすく知ることができました。科学に抵抗感があっても、読みやすいはずよ!

 

あまりにも読みやすく、あまりにも切ないドキュメンタリーだったため、ブログで紹介することにしました。あまり接点のない職業だし、接点がないに越したことはないと思いますが、いろんな人に知ってほしい職業です。

では。

 

◆本日の一冊+α◆

死体、遺体を取り扱う仕事の本で、興味深かった内容を1つ。