中学生だったか高校生だったかは覚えていないが、国語の授業で初めて『平家物語』に触れた時、音読した時の言葉の響きがあまりにも面白くて頭にずっと残っていた。那須与一が矢を放つ場面での「ひょうふっと」という表現、続くリズムがクセになった。
この本を買ったきっかけは、古文を読みたくなったからである。高校を卒業してから古文に触れる機会はめっきりなくなってしまった。卒業後も古典や名著に興味はあったが、その頃の私は他のことに熱中していたので、触れる機会が失われていた。
ビギナーズ・クラシックは現代語訳が充実していて読みやすい。物語が全て掲載されているわけではなく、現代語訳もその章の要約のみといった箇所も多い。
読みやすいが、ある程度知識がある人にとっては多分物足りない。でも私のように、平家物語が全編通してどんな物語なのかを改めて知りたい人だったり、いきなり古文をスラスラ読むことはできないけれど原文に触れてみたい人だったり、そのような人には非常におすすめできるシリーズだ。
改めて読み返すと、普段読み慣れていない原文からでも『平家物語』の肝となる無常感や、戦場の臨場感、独特な死生観が伝わってきて、胸に響いた。
物語の途中、さすがにありえないような比喩もあり、笑ってしまったが、このやりすぎな比喩があるからこそ、当時の人々は胸を高鳴らせながら物語に思いを馳せていたのかもしれない。
個人的に気に入っている場面は義仲の最期だ。
乳兄弟を思う人情深さが仇となり、敵に討ち取られる無念さと、守るべき主君亡き後に守るものなどない、と壮絶な最期を遂げる乳兄弟・今井四郎兼平の描写に息を呑んだ。何度読んでも心にグッとくる。
2022年に放送された大河ドラマ『鎌倉殿の13人』と合わせて鑑賞するのも面白いかもしれない。私はこのドラマがめちゃくちゃ好きだったので、ドラマで描かれた情景や役者さんの顔を思い浮かべながら読んでいた。