『パラサイト 半地下の家族』を観てきた。
ブラックコメディとして楽しめたが、鑑賞後、作中で描かれた「経済格差」「貧富の差」について考えさせられた。
エンタメを通じて社会問題に触れる、とても巧みな映画であった。
※一部ネタバレあり。ネタバレNGな方は鑑賞後に読んでいただけると幸いです。
パラサイト 半地下の家族
第72回カンヌ国際映画祭で最高賞!『パラサイト 半地下の家族』予告編
あらすじ
“半地下住宅”で 暮らす貧しい4人家族がこの物語の主人公だ。しがない内職で生計を立てている4人家族のもとに舞い込んだ「社長の娘の家庭教師」というアルバイト。家庭教師を始めた息子は嘘に嘘を重ね、IT企業の社長一家の豪邸に、少しずつ少しずつ家族を「寄生」させていくのだが…
“半地下住宅”と“社長一家の大豪邸”の対比も頭に残るが、社長一家に「寄生」していく貧しい一家の様には笑ってしまう。
貧しい一家が「寄生」を完了させるまではかなりコミカル。ただ、本作はそれだけで話が終わるほど単純な映画ではない。"ネタバレ厳禁"な展開が巻き起こると、まあまあゾッとさせられる。
ソン・ガンホの演技に引き込まれる
本作を鑑賞して一番印象に残ったのは、ソン・ガンホの表情だ。
ソン・ガンホは“半地下住宅”で暮らす貧しい4人家族の父キム・ギテクを演じている。
度々事業に失敗し、計画性も仕事もないのに楽天家な父キム。
映画冒頭のキムは情けない雰囲気が満点だし、嘘に嘘を重ねる息子や娘に対し、怒るのではなく「よくやった」と褒めちゃうんだからよろしくない。
ただ、一家の家長であり、時折見せる「父」の顔が、このどうしようもない家族のあたたかさを感じさせるから、やってることはなかなかクズなんだけど嫌いになれない。
そんなソン・ガンホの表情で、忘れられなくなる顔が2つある。
「机の下で顔を腕で覆い、屈辱に耐えているシーン」と「一線を超えてしまったときのシーン」だ。
まず1つ目。社長一家がキャンプに出かけたのをいいことに、キム一家が社長宅に転がりこんで悠々自適に過ごしていると、社長一家が帰ってきてしまう。
"ネタバレ厳禁"な部分にあたる、他の「寄生者」とのすったもんだもあり、うまく逃げることができなかった父、息子、娘は、リビングにあるテーブルの下で息を殺すしかなかった。
その近くにあるソファで社長夫婦がとりとめもない会話を始めるが、その内容は、社長一家の運転手のフリをしているキムの「体臭」についてだった。
「あの男から低所得者の臭いがする」と言われた父は、息を殺しながらも自分の服を嗅ぐ。父の体臭をネタにしながら、社長夫婦はセックスをし始めた。
カメラは上からセックスを始めた社長夫婦とキム一家が潜むテーブルを映す。テーブルの下に彼らが潜んでいることを観客は知っている。半地下での暮らしを強いられる家族と社長一家の越えられない階級の差を描いているようだった。
社長夫婦の会話をテーブルの下で黙って聞くしかないキム。何度かその姿が映し出されるのだが、あるとき、彼は顔を腕で覆う。顔全体の表情はわからなくても、ぎゅっと閉じられた口元だけで、彼が屈辱を味わっているのはわかる。
どんなにうまく社長一家に「寄生」しても、彼らが社長一家になることはできないのだ。
この「臭い」で表現される「貧富の差」が、2つ目の印象的な表情「一線を超えてしまったとき」につながる。
社長一家の豪邸から逃げたキム一家は、翌日、社長一家の息子の誕生日会に参加することに。「社長一家の運転手」として彼らと向き合うキムだが、昨晩、社長夫婦が言った「臭い」のことが頭から離れない。
誕生日会は他の"寄生者"によって惨劇に変わる。キムの娘が包丁で刺され、おびただしい血を流して苦しんでいるが、社長一家とその場に招かれた富豪たちは、彼女には目もくれず、一目散に逃げていく。
その光景を前に、キムの表情がみるみる曇っていく。
そして、他の"寄生者"に対する社長の仕打ちが、屈辱を味わったキムに一線を越えさせてしまった。
社長は家族とともにその場を逃げ出そうと、「車の鍵をよこせ」とキムに怒鳴る。しかし車の鍵は、運悪く、血を流して倒れている他の"寄生者"の体の下に落ちてしまう。
他の"寄生者"もまた「地下」の住人だ。その「臭い」に鼻をつまみ、嫌悪感を露わにしながら鍵を拾う社長。
「臭い」顔を歪める社長が画面いっぱいに映し出される。キムが味わってきた屈辱を観客に知らしめるように、じっくりと。
キムはその場を走り去ろうとした社長の首に包丁を突き刺した。
倒れる社長をじっと見つめて立ちすくむキムの目は絶望に満ちていた。
娘を誰も助けようとしないことに腹を立てた父の表情にも、貧富の差に絶望した一人の男の表情にも見える。
いずれにせよ、底知れない絶望が、ソン・ガンホの光を失った目から伝わってきた。立ち尽くすキムの姿は、誕生日会の華やかなテーブルに散った鮮血よりも残酷に思えた。
さりげなく現代の闇に触れる作品
わたしはこの映画をブラックコメディと捉えている。
「ブラック」の部分を外すことはできないが、何度か笑える描写があったし、展開もテンポも良かったので、エンタメ映画として楽しめると感じた。だから「ブラックコメディだなあ」って。
まあ、本作の背景にある「貧富の差」を考えると、簡単に「コメディ」とも言えない気はするけど。
例えば『黒い家』をブラックコメディではなくホラーと捉える人にとっては、本作も『黒い家』同様、怖い映画に感じられるかもしれない。だって「家に他の家族が住んでる」って、考えてみたらまあまあ怖いし。
でも、エンタメ映画として観客を楽しませながら、「貧富の差」や「一線を越えてしまう瞬間」をこちら側に伝えてくる本作は凄い。
「貧富の差」や「社会の闇」を描く作品は他にもある。例えば『誰も知らない』や『万引き家族』などの映画は、社会問題を真正面から捉えていて、メッセージ性が強く、確実に社会問題をこちら側に伝えてくれる。
ただ・・・わたしは時々、これらの「重すぎる」ヒューマンドラマに抵抗を感じてしまう。社会問題を知るためには「観るべき」だと思うのだが、その強いメッセージ性や決して明るくないあらすじを読むと、気が重くなり、手が遠のく。
一方、本作は、いい意味で、社会問題に「うっかり」触れさせてくれる。
もちろん最初から最後まで、「貧富の差」などには触れることなくブラックコメディとして楽しんでしまう観客もいるだろう。しかし中には、映画として存分に楽しんだ後、ふと社会問題に気づく人もいるのではないだろうか。
エンタメ作品として観客を楽しませながら、さりげなく現代の闇に触れさせている。ものすごく巧みな映画だ。
なおエンディングロールで流れる楽曲も秀逸だ。半地下生活を想像させる歌詞を明るく爽やかに歌う、かなりジョークの効いた歌なのだが、それを「ジョーク効いてんな」と笑えるのも、今だけかもしれない。
半地下で生活する人から見れば、明るく歌う「しかない」歌なのかもしれないのだから。
では。
◆本日のおすすめ◆
わたしはなぜだかこっちの方が印象強いけど・・・!