私の反論は反論ではなかった。紀藤正樹『議論の極意 どんな相手にも言い負かされない30の鉄則』(SBクリエイティブ・2023年)

議論の極意 どんな相手にも言い負かされない30の鉄則 (SB新書)

この本を購入したきっかけは、夫の存在である。

夫は人と議論するのが好きだ。時折、議論というより火種を生むのを楽しんでいる時もあるが、基本的に夫は理性的に話す。一方の私は、彼と話している時にどうしても感情的になってしまうことがある。だから私は、建設的な会話ができなくなる自分側の原因を探るべく、この本を購入した。

それから、本を購入した理由はもう2つあって、1つは「言い負かされない」方法を知りたかったから、もう1つはカルトや詐欺などへの自己防衛力をつけたかったからである。

 

この書籍を読んで、人に最もオススメしたいと思ったのは「議論力トレーニング(ワークシート)」の項目である。

議論力を鍛えるためのワークシートが用意されており、シンプルな「三段論法」のトレーニングから始まる。だが、だいぶシンプルな三段論法のトレーニングでも、案外戸惑うものである。

ワークシートを解いて分かったことがある。どうやら私は、状況把握はできているものの、それを要点ごとにまとめあげる力がない。どんな課題に直面しているのか、どうすれば解決に導き出せるのかといった、情報から論点を導き出す能力が著しく低いことを痛感した。

自分に論理的に物事を捉える力がないことをあらためて知った。こればかりはトレーニングあるのみなので、新聞やニュースの話題を使って、三段論法にまとめる癖を作ろうと思う。

 

この本を読む中で一番の気づきは、私の反論が反論ではなかったことである。

p.154〜155で「あなたはわかっていない」「あなたの理屈は理解できない」は反論ではないとある。また著者は以下のような言葉を記す。

価値観の相違は容易には乗り越えられませんが、どういう理屈で価値観を組み立てているのかを互いに汲み取り合えば、議論をきちんと進めることができます。

本来は、どんなに相手と価値観が違ったとしても、議論を続けることはできるのだ。

しかし私には、上記の言葉で議論を断ち切った経験がある。私はめんどうくさいばっかりに議論から逃げたことがあるのだ。反省した。

 

なお、第4章「議論力を磨く習慣〜異なる価値観にふれ、謙虚に学ぶ」では、議論力を磨くのはもちろんのこと、“トンデモ”ではない知識や事実を身につけ糧にする技術を教えてくれる。 この章の内容は情報リテラシーを高めるのにも役立つ。

なので、他人の言うことを全部鵜呑みにしちゃう人や他人の意見に流されて自分の軸がブレッブレな人などにこの章の言葉が届いたらどんなにいいことか、と思った。

それからこの本には、絶妙に話が通じない人やどうしても議論にならない相手とはどこでズレが生じているのか、が説明されている。「ああ、だからか」とものすごく腑に落ちた。

この本を繰り返し読み、トレーニングを積んでいけば、誰とでも向き合う自信がつくはずだ。

 

著者の気持ちが感じられるやや強い口調も見どころだと感じている。結構、辛口だ。特に、ある人物がやっているのは議論ではない、という主張が感じ取れる部分は、著者の人間味がしっかりと伝わってきて、好感を抱いた。