映画『アイアン・スカイ』ナチスが月から攻めてくる異色のSF映画。ラストシーンは皮肉効きすぎ!

アイアン・スカイ(字幕版)

 一部ネタバレあり。

 今作をまだ観ていない人に向けて、「あ、やっぱ観てみようかな」と思えるようなレビューを目指しているが、鑑賞後感じた魅力を伝えるために一部ネタバレがある。

 「映画鑑賞前のネタバレ絶対NG」な人は、映画鑑賞後にぜひお越しを

 

 

映画『アイアン・スカイ』感想

 「SFパニック映画特集!」と銘打ちながらも、果たしてこの映画が”SFパニック”なのか・・・そもそもパニック映画の定義とは・・・みたいな疑問も抱きつつ、きちんとパニックに陥るラストが秀逸すぎてたまらないのでご紹介。

 決してメジャーな映画ではないし、そのジャケット写真からも「ヤバそう」な匂いがプンプン漂うものの、わたしはこの映画を観てよかったと心の底から思っている

 

 皮肉効きすぎ。

 

あらすじ

2018年、再選を目指すアメリカ大統領により、選挙PRのために月に送り込まれた黒人モデルのワシントンは無事に月面に上陸。しかし、すぐに鉤十字を身にまとう月面ナチス親衛隊クラウスに拉致されてしまう。なんと彼らは、第二次大戦後地球を後にしたナチスだった!

彼らは月へと逃亡し、地球へ復讐を果たすべく月の裏側に第四帝国を築き、軍備を増強していたのであった。 機は熟した。ワシントンをガイドに、月面総統閣下はいよいよ地球への侵略を開始する。地球ではアメリカを中心に急遽地球防衛軍を結成。

前人未踏の宇宙規模の戦いが今、始まる!

引用元:Amazon.co.jp:アイアン・スカイ(字幕版)

 

トンデモ設定に一目惚れ

 第二次世界大戦を生き延びたナチス・ドイツが月に潜伏していた」という設定に一目惚れ。

 映画冒頭、アメリカ大統領選挙PRのために黒人モデルが月に降り立つ。そこで月で虎視眈眈と、地球征服を目論むナチス・ドイツと出会い、物語が開始する。ナチス・ドイツ側が現代社会と接触していないため、時代錯誤な発言が飛び交うのが面白い

 

  • 月に降り立ったことでナチスの地球征服に巻き込まれる黒人モデルのジェームズ・ワシントン
  • ナチス・ドイツin月で生まれ育ち、ナチスが「正義」と信じてやまない女性教育指導官レナート
  • 地球征服したい親衛隊隊長アドラー

 

が物語の中心。

 92分という短い映画だが、誰もが一目惚れするようなトンデモ設定を存分に活かし、ナチス・ドイツin月が大暴れする映画である。

 

ブラックジョーク満載すぎ

 時代錯誤すぎる発言が魅力的な作品だからこそ、ブラックジョークが効きすぎている。映画序盤で度肝を抜かれたブラックジョーク発言は、

 

 「なんで黒人が宇宙飛行士をやってんだ」

 

である。

 第二次世界大戦で時が止まっているため、黒人を"劣等種"と捉えるナチス・ドイツin月。このご時世、そんな発言をすればSNSでたちまち拡散され非難の嵐となるだろう。が、そんな台詞がバンバン出てくるような映画だ。

 ブラックジョークが効いてるな〜と達観視できない人にとってはきつい映画かもしれない、と今気づいた。

 なお、黒人モデルのジェームズ・ワシントンは、ナチス・ドイツin月によって「白人に変えられる」という展開が待っている(失礼ながら面白すぎるシーンなので白字で伏せた)。

 

 それから、劇中で登場する何代目か分からないアメリカの大統領。

 映画では名前を出されないものの、小説版で堂々と「サラ・ペイリン」と名を出され、というか「本人かな?」と見紛うほどそっくりな女優をあてがわれ、これは完全に本人をおちょくっている。劇中、大統領は考えなしに発言し、世界はてんやわんや。

 ナチス・ドイツin月もどことなくおバカなら、アメリカin地球(というか世界)もどことなくおバカってのが、この映画を面白くさせる要因である。

 

 が、それが皮肉な結末へとつながっていく。

 

ラストシーンは必見

 なんと言っても今作は「バカバカしい映画」だ。映画鑑賞中に、今作に散りばめられた皮肉に気づくことは少ないと思う。感傷的になることは、まずない。

 

 しかし、ラストシーンだけは違う。

 

 「ありえない」とは決して言い切れない未来を見させられているようで、人によってはほんの少〜しゾクッとするはずだまあ・・・全編くだらないから、ほんの少しだけどね。

 このラストシーン、「本当に人ってバカバカしいな」と思わされるだけでなく、あまりの愚かさと巧みな(?)演出によって、若干の美しさも感じる

 

 それが恐ろしい。

 

 『アイアン・スカイ』を観たことない人に観てほしい気持ちが強すぎて、ネタバレ予告をしているにも関わらず、ネタバレを伏せたくなってしまった。なので以降白字で伏せる。お手数をおかけするが、気になる人は文字色を反転していただきたい。

▼ここから(長いよ)▼

 アメリカは映画冒頭、月面での選挙PRに合わせて、ちゃっかり核融合燃料の探索ミッションを行なっている。どういうことか。ざっくり要約すると「核保有はやめようね〜(と言っておきながら、わたしは来るべきときのために核原料探しとこ)」みたいな話である。

 そのことが、ナチス・ドイツとの決戦後に世界各国に知れ渡る。が、世界各国で協力して戦ったはずなのにアメリカ大統領は「アメリカが勝ったから、月はアメリカのもの」と発言してしまう。月には、核融合原料がたくさんあることが判明している。

 何が起こるかって?

 ・・・戦争だよ。

 ラストシーンで、宇宙から見た地球が映し出される。いたるところで核爆発が起きていて、地球のあちこちに「きのこ雲」が見える。

 あまりに皮肉の効きすぎたラストに、わたしはポカンとしてしまった。でも、戦争を繰り返してばかりいる人間の愚かさが逆に愛らしく思えるほどのおちょくられ方に感動を覚えたし、きのこ雲に覆われていく地球の映像は美しかった。

 あんな風に人生が終わるのは虚しいなあと思いつつ、もしかしたら、あんな風にして簡単に世界は終わってしまうのかもなあと感傷的になった。

 バカバカしい映画にしては、美しすぎる終わり方なのだ

▲ここまで(読んでくれてありがとう)▲

 

漂うB級臭を侮ってはいけない

 DVDジャケットから漂うB級臭は認める。だけど、「どうせB級なんだろ」と構えて見るとぶん殴られる映画だ

 映画構成、起承転結はしっかりしているし、キャラ立ちもいい。92分間と観やすい長さだし、内容もキャッチー。確かにB級ではあるのだが、「B級=つまらない」ではないと証明してくれる

 

 難点が1つあるとすれば・・・「政治ネタ」で笑わせる映画なので、「国際政治」に疎いと笑いづらい場面も多い

  1. まずは「くだらない映画」として楽しむ
  2. 笑いづらかったシーンに必要な「国際政治」の知識を学ぶ
  3. 2回目を楽しむ

という楽しみ方もおすすめしておく。

 では。

 

◆本日のおすすめ◆

「皮肉効きすぎ」と言えばこれも外せない