こんにちは、齋藤吐夢です。
趣味を読書と言えるまでに、週に2~3本は小説、随筆その他もろもろを読破できるようになりましたよ。そんな中、今回読んだ小説は本当に丁寧に丁寧に読んだ作品です。
速読ができても、あえて一文字一文字目で追ったほうがいいと思うの。
『ことり』
私がこの本を手に取ったのは実は1年前で、でもあまりにも丁寧な文章だったので、心に余裕のない私は3分の1くらいで諦めていました。でも、あらすじが本当に面白そう!と思って購入した本なんです。
“人間の言葉は話せないけれど、小鳥のさえずりを理解する兄と、兄の言葉を唯一わかる弟。二人は支えあってひっそりと生きていく。やがて兄は亡くなり、弟は「小鳥の小父さん」と人々に呼ばれて・・・。”
不思議な兄弟の一生が描かれている作品で、言ってしまえば本当に兄弟の一生“だけ”が描かれているのですが、本当に不思議な魅力が詰まった本でした。
小川洋子さんの紡ぐ文字
小川洋子さんの本は中学校時代にも読んでいましたが、丁寧に丁寧に物語を紡いでいく人なんだろうな、と小川さんの書く文章を読み進めていくと思ってしまいます。
登場人物たちの一挙一動の表現が本当に丁寧で、別に人物描写を明確に書いているわけでもないのに、きっとこんな人、という姿がふわあっと浮かびあがります。
お兄さんの言葉が文字で記されることはほとんどありませんが、どれほどまでに美しい言葉なのかは、小川さんが描くそれを聞く弟や鳥たちの表現で想像ができてしまいます。
物語は平坦だけど退屈じゃない
兄弟の送る一生は波乱万丈な人生では決してありません。互いが互いに毎日をルーチンワークのようにこなす丁寧な日々。時々羽目を外したくなる、なんて欲望は一切浮かばないかのように、黙々と毎日を過ごしています。
お兄さんが亡くなってからは、もちろんお兄さん以外の人との関わりも増え、少し話がぱあっと動くこともありますが、基本的には淡々と毎日を過ごしていきます。
でも、その様子が少しも退屈じゃないんです。
昔の日常を描いた日本映画を観ているかのような、丁寧で平坦な日常の映像が浮かんでむしろ心地いいんです。
人物像や背景が水彩画のようだ
平坦さが影響しているのかは分かりませんが、私の頭の中で描かれるこの小説の映像は、どのシーンを切り取っても水彩画のように少しぼやけた色合い、質感の映像となって浮かびます。けれどこれはきっと大抵の読んだ人にも理解してもらえる気がしています。
パステルカラー、遠くぼやけた映像で、兄弟の平坦だけれども、美しい小鳥のさえずりに囲まれた幸せな日々が浮かびます。
心を落ち着かせるための本
実際、購入した直後は、身も心も焦燥感でいっぱい過ぎて、この作品に丁寧に費やす時間がなかったな、と思っています。
この間、電車で出かける時に欠かさず持っていったら、その目的地で入ったカフェでも読み、自室でも読み込み、深呼吸するかのように読み続けたから読破できたのだと思います。
少し疲れ切った心の時に読むと、
深呼吸と同じような効果が得られるかも
そんな風に思うんです。
では。
◆本日の一冊◆