先日、DIC川村記念美術館で開催されていたジョセフ・アルバースの展示を観に行った。
ジョセフ・アルバースの存在を知ったのは、先月(2023年10月)六本木・国立新美術館にて開催されていた『テート美術館展 光 ーターナー、印象派から現代へ』で展示されていた絵画シリーズ<正方形讃歌>である。
『テート美術館展』の<正方形讃歌>を目にした時、「どこかで見たことある」と感じたので、おそらく、武蔵野美術大学通信教育課程に通っていた時にも触れていたはずだ。
ジョセフ・アルバースの第一印象は(そして雑な説明をするならば)「『色』で、『四角』い作品の人」だった。それだけ<正方形讃歌>はインパクトがあった。ぱっと見はとにかくシンプル。けれど、それにインパクトがある。
DIC川村記念美術館での展示で、何よりも楽しかったのは以下の2つ。
- 教育者という側面にもスポットライトを当てた展示
- アルバースの出した課題に挑戦できるワークショップ・スペース
展示物の中には、ジョセフ・アルバースが色彩をどう捉えているか、そしてジョセフ・アルバースに習った学生たちによるインタビュー動画が上映されていたのだが、それがなかなかに面白かった。
ジョセフ・アルバース自身が学生時代に描いた自画像デッサンからも感じられたが、なかなか手厳しい人物像だったようで、彼に習った学生たちが、彼の授業は現在の自身の制作にも影響を与えていると語りつつも、彼のことが苦手だったと語っていたのが印象に残っている。
ジョセフ・アルバースの<正方形讃歌>の制作過程も映像で見ることができた。遠目に見ると、ピシーッと角の決まった正方形が並んでいるように見えるが、あれはハンドライティングだった。下書きには定規を用いて直線を引くも、パレットナイフだけをもって、こだわりの色をこだわりのある薄さで、丁寧に丁寧に塗っていく姿は魅力的だった。
隣接する色同士の効果について語るジョセフ・アルバースの言葉はそこそこ難解で、決してスッと胸に入るものではないが、実際の作品を目の前にした時の、色と色と、その間の色と……に対して「隣り合っている色がもしこれではなかったら」などと考える時間は楽しい。
そして、企画展の始まりを飾っていたワークショップ・スペースには、ジョセフ・アルバースの課題に思い思いに答えていった来場者の作品が展示されている。これがとてもよかった。
特に、課題1「色のマジック:1つの色が2つに見える」と課題2「3色の世界:同じ色から違う世界が生まれる」は課題の意図と、色彩の効果が感じ取りやすい。文末に貼付するURLには、課題のヒントとなる解説動画も掲載されている。
来場者の作品は十人十色だった。課題に全力で答えている作品からは、“1つの色が2つに見える”効果や“同じ色から違う世界が生まれる”効果がバシバシと感じられ、思わず「本当だ!」と声をあげてしまった。色の配置を変えるだけで、簡単に印象は変わってしまう。
その一方で、自由気ままに切り貼りしている作品を見るのも面白かった。課題の意図からは外れているものもあったが、それらはのびのびとしていた。
黙々と作業を続ける来場者の姿も心に残っている。その人たちが色彩がもたらす効果について深く考えていたのか、いないのか、私はその人たち自身ではないからわからないが、いずれにせよ、作業に没頭する姿を見て、私は「なんだ、みんな、美術が好きなんだ」と勝手ながらほっこりしていた。
絵画制作において、色彩は悩みの種である。
色彩に頭を悩ませることは多々あるが、それは単純に、「私の色彩への向き合い方がまだまだ甘いというだけなのだな」とジョセフ・アルバースの展示に触れて思った。機会があれば、また出会いたい。