映画「ブルージャスミン」/くたびれたケイト・ブランシェットが大好き。

ブルージャスミン(字幕版)

オーシャンズ8」を観に行って以来、ケイト・ブランシェット好きを再確認した。

その美しさのみならず、演技の幅が凄まじいと思うのよね

気品の出し入れがすごい。やさぐれてんのに気品が出たり、気品がありそうなのに出そうとしなかったり。

そんなケイト・ブランシェット、「うわあ、役者さんとして最高だな」と思った一番の映画は「ブルージャスミン」だと思う。

 

 

ブルージャスミン


映画『ブルージャスミン』予告編

 

あらすじ

サンフランシスコの空港にジャスミンという名の女性が降り立った。かつてニューヨーク・セレブリティ界の花と謳われたジャスミン。しかし、夢のセレブ生活から一転、裕福でハンサムな実業家のハルとの結婚生活も資産もすべて失い、人生のどん底にいた。庶民的なシングルマザーである妹ジンジャーの質素なアパートに身を寄せたジャスミンは、華やかな表舞台への返り咲きを図るものの、過去の栄華を忘れられず、不慣れな仕事と勉強に疲れ果て、精神のバランスを崩していく。そんなある日、理想的なエリート外交官の独身男性ドワイトとめぐり会ったジャスミンは、彼こそが再び上流階級にすくい上げてくれる存在だと確信する。

引用元:Amazon.co.jp : ブルージャスミン

 

笑えるようで笑えない

呼吸するように嘘をつき、見栄を張り続けるジャスミン

実は、名前も見栄を張るために自分で変更している。本名はジャネット。平凡すぎる名前が嫌で、ジャスミンと名乗っている・・・という設定からもう「アイタタタ」である。

映画冒頭からビジバシと感じられる痛さ。聞かれてもいないのに、隣に居合わせた人に身の上話を延々とし続けるジャスミン隣に居合わせた人の、全力で空気を読んで聞いているフリをしている表情がめちゃくちゃリアル

そしてケイト演じるジャスミンも、一切その表情に気づかず話続ける感じが、めっちゃ痛い。

その描写がめっちゃ痛すぎるから「これコメディでいいんだよね?」とは思うんだけど、ウディ・アレン監督の映画ってのは、困ったことに笑いづらい。

痛さがリアルすぎるのだ

加えて、ジャスミンを陰ながらほんのりとバカにしている周辺人物も、あまり心地のいいキャラクターではない。だから余計、痛い人同士の傷の舐め合いというか・・・本当に”良い雰囲気”のキャラクターが1人も出てこないから、痛みを緩和するものがない

 

まあ、それがこの映画の最高に素晴らしいところなんだけれども(笑)。

 

見下し演技がすごい

この映画は、資産を全て失ったケイトと資産を失う前のケイトが交互に映し出される。慣れないうちは「ん?これいつの話」となるのだが、見慣れてくると、ケイトの表情だけできちんと過去か現在かが把握できる。くたびれてんのが現在ね。

で、面白いのが、現在のジャスミンも過去のジャスミンも、無意識のうちに他人を見下しまくっているということ。資産を失ってもなお、顔がくたびれてもなお、とんでもないプライドの高さを発揮するジャスミン

この時のケイトの演技がすごい。

「無自覚マウント女子」である

ことあるごとに、微妙にイラっとする言葉を発するのよね

空港でバッグを待っている時も、大きな声で「ヴィトンのバッグよ」とブランドをひけらかし、妹と久しぶりにあった挨拶でも「あら、やだ。”パリ式”の挨拶が抜けないわ」とか・・・言わんでいいことを、呼吸するように言うジャスミン

マウントする気満々で言っているわけではなさそうなのに、微妙〜にムカつく。そんなジャスミンを演じるケイトに脱帽である。

妹があまり姉であるジャスミンに文句を言わないのも、多分ムカつく要素が天性のものだってことを理解しているからなんじゃないかと。

 

見栄の張りっぷりがすごい

映画後半、自分を上流階級に引き上げてくれそうな男性を見つけたジャスミンは、見栄を張るために嘘をつく。いや、この時は見栄を張りたいんじゃなくて、本気で元の世界(富裕層)に戻れると思ったんだと思う。

呼吸をするように嘘をつくジャスミンの姿は、潔すぎて笑えるけど、やっぱり笑えない。だって嘘だもん。ウディ・アレン監督が、相手を騙した状態で映画を終わらせるわけないもの。

思えば冒頭でも、お金がなくてエコノミークラスに乗って妹の元へやってきたはずなのに「ファーストクラスに乗った」と言い張ったり、自分には仕事ができると信じてやまなくて、パソコン教室に通っても「向いてない」の1点張りで努力しているように見えなかったり。

妹の恋人や生活にケチつけまくりで、「自分はあんたとは違う」と言い切るジャスミンだけど、映画を鑑賞している私たちからすれば、「あんたそれブーメランになってるよ!」ってぐらい痛々しい

見栄を張り、残っているわずかな気品を全力で使い、上流階級への愛をつかもうとしたけれど、そんな彼女の見栄は「過去に恨みをもつ男」のせいで台無しになる。それでも彼女は、自分がしたこと、見栄とか嘘、が悪いだなんて微塵も思ってない

(なんで元の世界に戻れないの?このわたしが)

本当にこうとしか思ってないのだ。

 

ケイトのくたびれ顔がすごい

ケイトは夫の浮気や夫逮捕後の生活が相当精神的にキたのだろう。パニック障害持ちとして描かれている。ことあるごとに薬を口に放り込み、呼吸ができないとパニックになる。

一番すごいのは、うわ言を話すケイトのくたびれた顔だ。

ジャスミンは過去を思い出すたび、現実世界で独り言をいうようになった。人のいる前で宙を見て、ボソボソと1人で話すジャスミンに周りの人は「うわあ・・・」という表情で距離を置く。

ボソボソとうわ言を話すケイトの表情には、ケイト・ブランシェット自体が醸し出している気品すらない

そこにあるのは、言葉は悪いが”くたびれたババア”の顔だ。

本当にやばい。

この映画が笑えない所以でもある。

映し出されたケイトの表情は、精神的に限界な女性のくたびれた顔なのだ。これを笑えとウディ・アレンが言うのであれば、わたしはウディ・アレンの性格の悪さに引く。でもそのぐらいくたびれきったおばさんの顔に大変身しちゃってるのだ。

過去の話と現実に行ったり来たりするたびに、表情がコロコロ変わってしまうジャスミンからは、痛々しさと共に同情心が湧いてしまう。とはいえ、彼女を擁護したいかと言うと「無意識マウント女子」だから、やっぱりなんか嫌だ・・・ってなる。

もしかするとこの映画は、そんな観客側のリアルすぎる感情を奮い立たせることに力を入れているのかもしれない

「かわいそうだけど、この女とは関わりたくない」そう思ってしまう観客こそコメディなのだ!な〜んてウディが言ったりした日には、その性格の悪さにドン引きし、彼をタコ殴りにするかもしれない。

でも、あり得る・・・!

 

サリー・ホーキンスも魅力的

なお妹役として、「シェイプ・オブ・ウォーター」でびっくりするほどエロかったサリー・ホーキンスが出演している。彼女はめちゃくちゃ可愛い。

ただし劇中では、絶妙に共感しにくい「どっちつかずな女」を演じている。可愛いけど、好きなキャラクターにはならない。でも「可愛いんだけど、絶妙に好きになりづらい、ちょっとバカっぽいキャラクター」があるからこそ、ジャスミンの痛さは倍増する

妹の男性関係が、なんだかんだ言ってうまくいくことも、ジャスミンにとってはトドメの一撃だったと思う。無意識マウントを妹にとり続けてきたのに、自分が嫌いなタイプの男性とはいえ、彼女はうまく男性と交際できているのだから。

 

人のふり見て我がふり直せ映画

この映画、観終えた後ふと思ったのは「こういう女に、ならないようにしなければ」という自戒の念である

ジャスミンのような性格、平気で嘘をつきまくる無意識マウント女子はそうそういないはずだが・・・いないと思いたいのだが、ジャスミンに自覚がなかったことを考えると、自分がジャスミンのような女である可能性も0ではないということだ。

 

笑えるようで笑えない、と書いたものの、まあ、ちゃんと笑えるよ。でも、その分「人のふり見て我がふり直せ」を意識させられることだろう。

では。

 

◆本日のおすすめ+α◆

こちらのケイト・ブランシェットは渋かっこいい

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