外山紀子・中島伸子『乳幼児は世界をどう理解しているのか』(ポプラ社・2023年)

乳幼児は世界をどう理解しているのか (ポプラ新書)

この本は、ヒトの認知能力とこころの発達について、世界の研究データをもとに解説した本である。研究データの対象は主に乳幼児だが、大人の認知能力や大人の物事の捉え方についても触れられているので、この本の関連分野が「子ども」「子育て」に絞られる、というわけではないと思う。

 

私がこの本を選んだのは、子どもの誕生が目前に迫る中、乳幼児が物事をどう捉えているのかに興味がわいたからである。

以前、ユクスキュル/クリサート著・日高敏隆/羽田節子訳『生物から見た世界』(岩波文庫・ 2005年)を読んだが、どうあがいても私は私の視点や経験によってしか物事を捉えることができないが、自分とは別の他人、しかも赤子がどんな風に物事を捉えているかを知りたかったのだ。

なお、上記に示した私の興味を満たしてくれた章は、「第1章 乳児のコミュニケーション」と「第2章 記憶と学習」である。乳幼児のものの見方が気になる方は、ぜひ第1章と第2章の研究結果を読んでほしい。私が想像していた以上に、乳幼児は物事をよく理解していた。

 

この本を読んで心に響く箇所が多かった章は「第6章 自己の発達 自分自身をどう理解するか」だ。出産を控え、次のフェーズである子育てに進む私にとって必要な心構えが記されていたからだ。

ただし、この本が本当に伝えたいこととは少しズレると思う。この本はおそらく、世界の研究データをもとにヒトの知性やこころの発達の「本質」を伝えることに重きを置いているのではないか。

もちろん著者らが、この本の内容を子育てに活かすことは絶対に許さない、ということはないと思うけど、いわゆる子育てノウハウ本のつもりでは書いてないと思う。あくまでも、乳幼児を対象とした研究データを示す本なのではないかと。

とはいえ、オンライン上で公開されている記事や、YouTubeの動画で「多分、そうなんだろうな〜」と薄らぼんやり納得していた、子どもを健やかに育てるうえに大切な心得的なことが、さまざまな研究結果をもとにしてこの本の中に記されていたことで身が引き締まる思いがした。

たとえば、いわゆる「プロセス褒め」に関する以下の内容など。

(前略)大人が日頃の言動を通して「能力や知能は変わりうる」というメッセージを発信していくことが成長的マインドセットを育てるうえで大切だと考えられます。

引用元:外山紀子・中島伸子『乳幼児は世界をどう理解しているのか』p.253〜254(ポプラ社・2023年)

ドュエックらが10〜12歳の子どもを対象に実施した調査では、学力テストの結果について努力やプロセスを褒めると、能力を褒めた場合よりもその後の学習における粘り強さや挑戦性、さらには学業成績が高まることが示されています。

引用元:外山紀子・中島伸子『乳幼児は世界をどう理解しているのか』p.254(ポプラ社・2023年)

また、“子どもの自己制御の発達を促進する要因について明確な結論づけはできない”と記したうえで、せいぜいこれなら「よい」といえる子育ての姿勢について指摘している以下の記述は、ぜひとも心がけたいと思った。

せいぜいいえるのは、支援的な子育て(子どもの力を信じ、親が先回りをせず、後ろから支える)、しっかりとした生活習慣を築くべく管理すること(罰による強制ではなくルール遵守を求め一貫して繰り返しいい聞かせるなど)がよい、と指摘しています。

引用元:外山紀子・中島伸子『乳幼児は世界をどう理解しているのか』p.261〜262(ポプラ社・2023年)

 

この本の難点を強いていうならば、乳幼児を対象とした実験内容の詳細が綿密に記されているものの、やはりその内容を文章で読むのはやや骨が折れるという点である。

しかし、この本は親切だ。

「〇〇と検索すれば、関連する実験動画を見ることができる」等の記述がある。なので、文章を読んで実験内容を理解するのがやや消耗する、という人には、手元にスマホやパソコンを用意して、関連動画を鑑賞しながら読み進めていくことをおすすめする。

 

最後に、私はこの本を出産前に読み切ることができて良かったと思っている。乳幼児から見た世界や、子どもの成長過程について知ることができたおかげで、多少は子どものやることに寛容になれるのではないかな……と思ったからである。

もちろん、子どもは自分とは別個体の生きものであり、自分の意思を持つ生きものだ。こちらの都合で動くことは絶対にないし、こちらの都合に合わせて動くような生きものにしてもいけない。だから、まあ、今の私が想像している以上に、子育ては「大変」なのだとも思う。その覚悟はしている。

ただ、この本やこれまで読んできた子どもの成長に関連する本が、私に多少は「冷静さ」を与えてくれたと思うのだ。それをぜひ活かして、生まれてくる子どもと向き合っていきたい。