不思議と涙が込み上げてくる。恩田陸『光の帝国 常野物語』(集英社・2000年)

光の帝国 常野物語 (集英社文庫)

高校生の時、本好きの友人から借りて読んだ思い出の小説を、久しぶりに読んだ。

 

この小説の好きなところは、物語の主軸となる常野の人々がなぜ不思議な力を持っているのかが具体的に明かされないところだ。彼らには不思議な力がある。ただ、それだけを説明して話が進むところが私は好きだ。説明されすぎない部分が多いおかげで、想像の余地ができる。

彼らが結局何者なのか、それが具体的に明かされないおかげで、かえって彼らの存在が際立ち、まるで読者側の世界にも彼らがひっそり生きているのではないか、そう思わせるような現実味がある。

最初に収録されている作品は、実際にそんなことを目の前でされたら少し怖いなと思うようなちょっとした不気味さと、でもその不思議で少し不気味な出来事のおかげで心が救われることもあるのだと感じられるあたたかさの絶妙なバランスに感動する。

常野物語は全体的にちょっとゾッとする。悪い夢を見ているような場面も多々ある。

でも収録作品「光の帝国」から伝わってくるように、一番恐ろしいのは「普通の」人々である。「光の帝国」は読み進めるのがしんどくなるくらいきつくて、私は読みながらポロポロ泣いてしまった。

そんな「光の帝国」にも希望はあって、私が好きなキャラクターである「ツル先生」は本当に強い人だと思う。

ツル先生の待つ姿勢には心動かされる。ツル先生もまた、現実にいたらちょっと怖いと思えるような特性があるのだが、彼の特性と彼自身の人物像が見事に合っていて、「光の帝国」は彼の気持ちを思うと悲しくて仕方ないのだ。

 

今作は、読み進めていくうちに各話が絡み出す。物語上で描かれる夢のような描写のように、読んでいると「ああ、あの人の物語だ」と理解できるのも面白い。つながりがあるので、私はとにかくツル先生が好きだが、最後に収録された作品のオチでもやっぱり泣いた。