「利他」超面白い。未来の人類研究センター編『RITA MAGAZINE テクノロジーに利他はあるのか?』(ミシマ社 ・2024年)

RITA MAGAZINE テクノロジーに利他はあるのか?

「利他」の概念は、生産性や合理化を進める際、ある種の障壁となるかもしれない。

けれどそんな少し間の抜けた概念であり、一歩間違えば悪用されたり、善行の押し付けとなったりする空恐ろしさもある「利他」を、一見相反しそうなテクノロジーや法や社会の世界に絡めて考えていく1冊である。

あらゆる研究者、専門家による対談、議論形式で文章が組まれているので非常に読みやすい。

 

まず印象に残るのが「Chapter1『漏れる』工学」の「分身ロボットとダンス」のページ。

分身ロボットOriHimeパイロットで身体表現性障害のあるさわさんと、振付家・ダンサーの砂連尾理さん、東京工業大学リベラルアーツ研究教育院教授の伊藤亜紗さんの対談は、当事者ならではの感覚と、知らず知らずのうちに作り上げられる「Aという人はBである」といった決めつけに気付かされるページだった。

他のChapter、ページでも取り上げられていた内容でもあるが、「言葉」は万能ではないと思い知った。

原文の方が臨場感があるので、ぜひRITA MAGAZINEを読んでいただきたいが、このページで、水の飲み心地を知るために、言葉による解説ではなく、水を飲んでいるのどの動きを見せてほしいというさわさんの発言に、ハッとさせられた。

自分がいかに、自分の世界で、自分ができる範囲の世界で、生きているかということ思い知らされる。

 

いくつかの章を通じて、「利他」が一方的な善行となる危うさについても考えるのが面白かった。先日、『人新世の「資本論」』を読み、共同体への興味と、でもやっぱり意見が異なる人が出てくる前提の中で、共同体をつくるのは難しそうだと思っていたところ、こんな言葉が出てきて行動を始める勇気が湧いた。

大事なのは、共同体に参加していることで、自分の意思が通ることが大事なのではない。

引用元:未来の人類研究センター編『RITA MAGAZINE テクノロジーに利他はあるのか?』p.82(ミシマ社 ・2024年)

 

なお、内容として面白かったのは、「Chapter2『野生の思考』とテクノロジー」で出てくる「石積み」と、「人間ではない『隣人』の声が聴こえる」。チンパンジーボノボと人間の違いについてのページも面白かったな〜。