こんにちは、齋藤吐夢です。
思っていた以上に色気のあるおとぎ話だったので、ドキドキしながら観ていた。
それはそれは、とてつもなく美しい物語で、映画を鑑賞するというより、声の出せない女性と人ではないものの惹かれ合う姿に”見惚れてしまった”というほうが正しい。
シェイプ・オブ・ウォーター赤裸々レビュー
結論から言うと、とんでもなく美しいお話だった。
人を生かしもするし殺しもする”水”という存在が、ものすごく神秘的に描かれている。登場人物2人の惹かれ合う様子には、必ず”水”が映り込んでいて、色気のある湿り気を感じられる。直接的にも間接的にもエロく、美しい映画だった。
ざっくりとあらすじ
時は1962年、アメリカとソビエトの冷戦時代。政府の極秘研究所に清掃員として働くイライザ(サリー・ホーキンス)は、赤ん坊の頃川へ捨てられた孤児。声帯を傷つけられて捨てられたために、声を発することが出来ない。
隣人の画家と清掃員の同僚としか接点を持たない孤独な彼女が出会ったのは、研究対象として連れてこられた半魚人だった。好奇心旺盛な彼女は半魚人と距離を縮めていく。半魚人もまた、彼女にだけ心を開き始める。
声の出せない女性の美しさ
主人公イライザを演じるサリー・ホーキンス(↑)がとんでもなく美しい。
予告編を観た時、物語の内容を事前に知った上で映像を観た時、「主人公、まあまあお年よね」なんて思っていたが、女性の美しさに年齢なんてものは関係ないと思い知らされた(大変失礼いたしました)。
41歳のサリー・ホーキンスから漂うのは、美しさ、可愛らしさ、行動力。
設定上、声を発することはできないのだが、しっかりと自分の意思を伝えようとする。時には感情を高ぶらせて訴えかけるシーンもあり、彼女の”強さ”に心惹かれる人も多いはずだ。
好奇心旺盛な主人公のエロス
半魚人と恋に落ちる設定が嘘くさくならない理由の一つに、主人公イライザの好奇心旺盛な部分が挙げられる。
映画冒頭、なんの事前情報もいれぬまま観た私は、冒頭でいきなりドキマギすることになるが(ちょっとエッチなシーンがある)、それを見せることで彼女が何においても、性的なものに対しても、強い好奇心がある女性だという説得力がある。
ただ、そのエロスがとことんエロい訳ではなく、惹かれ合う際に溢れだすエロスというか・・・お上品なのよね。
映画鑑賞中はドッキドキするシーンの連続とも言えるけど、不快感はない。むしろアセクシュアル(他人に対して性的魅力を感じることが少ない、または全くない人)な人以外は感じたことがあるであろう性的なドキドキが、違和感も不快感もなく伝わる。
人ではない存在の美しさ
アカデミー賞で美術賞も受賞した『シェイプ・オブ・ウォーター』。それも納得なのが、人ではない存在であるもう1人の主人公・半魚人の見た目である。
設定上”彼”は、アマゾンの奥地で神として崇められていた存在だ。そのためか、神々しさと異形の生物から感じられる奇妙さ、怖さが演出されている。それでいて、主人公イライザに興味を抱く目元が、ものすごく純粋なのも印象的だ。
人ではない者から感じられるエロス
そんな”彼”は立ち上がると結構背が高いので、人ではないものの恐ろしさを感じることになる。それなのに、とんでもないエロスを感じる。イライザではなくても、好奇心旺盛な人が対面したら、ドキドキしてしまうんじゃないだろうか。
もちろんイライザの醸し出すエロスとは少々違う。
彼女が出すエロスが性的魅力なのだとすれば、"彼"のエロスは神々しさが勝っている。映画の終盤でゆっくりと立ち上がる彼からは、畏敬の念を抱かざる得ない。
ただ動物的な動きをする”彼”の姿も、成人男性のようにイライザに愛おしく触れる”彼”の姿も、何一つ違和感を抱くことなく鑑賞できたってことがすごい。ギレルモ・デル・トロという映画監督が、一番バケモンである(褒めてる)笑。
デルトロならではの残虐描写も良い
今作はギレルモ・デル・トロの最高傑作とも言われていた『パンズ・ラビリンス』をも超える、との評価がある。『パンズ・ラビリンス』でも描かれているが、彼ならではのエゲツない残虐描写が、この物語にアクセントをもたらす。
まず『パンズ〜』は内戦後のスペインを舞台に、とある少女が幻想的な体験をするファンタジーなのだが、彼女が体験する幻想的な世界が美しくなればなるほど、現実世界は残虐で薄ら暗く、厳しいものになっていく。
少女の現実を脅かす存在となる義父が行う残虐描写はとてつもなく痛い。結構グロい印象があるので、色を反転しておくが、割ったガラス瓶で敵の顔面を突き刺し続けるシーンは直視できない。
『シェイプ・オブ・ウォーター』もガンガンに血が出るし、直接的なグロさは少なめだが、精神的にくる暴力描写が多い。こちらも色を反転しておくが、銃で撃たれた腹部に指を突っ込んで拷問するシーンは、スプラッター映画なんかより全然痛い!!!
ただ正直その暴力描写が、彼女達の惹かれ合う姿を魅力的に思わせる、引き立たせるものだと言っても良い。
(↑)鬱映画とも称される映画ですが、1回は観るべきです、傑作なので。
美しい”大人”のおとぎ話だった
思い返しても、胸がドキドキしてしまう。
少女漫画のような内容では決してない。もっともっと文学的で、映画という映像を”見て”いるのに、想像力をかきたてられる、深い恋愛映画である。
もはや水という響きだけでエロく感じる笑。
物語はおとぎ話だ。
イライザに訪れるラストは、本当のものかどうか分からない。それでもそうであってほしいと願ってしまう、美しい”大人”のおとぎ話だった。
では。
◆本日の一冊◆