こんにちは、齋藤吐夢です。
『彼女がその名を知らない鳥たち』という小説があります。
著者・沼田まほかるさんの作品は、これ以外にも立て続けに映画化されるのだけれども。どの作品も愛おしくて苦しいと思っている。
「秋の夜長に読みたい本は?」と問われた時、寒く厳しい冬が来る前に備えて読んでほしいと思った。
彼女がその名を知らない鳥たち
初めてその作品を知った時、主人公の女の子とは仲良くなりたくないと思った。
映画化に伴い、主役を演じるのが蒼井優さんで非常に可愛らしいのだけれども、だけど「絶対関わりたくないな、この女と」と思うほどクズな主人公だと思う。
言っていることとやっていることが噛み合ないあの感じ、本当にイライラさせられるのだ、読み始めは。読もうと思うまでの間は。
あらすじ
主人公・十和子は、15歳年上の男・陣治と暮らしている。陣治は不潔で下品な男で、十和子は彼に激しい嫌悪感を抱いているけれど、彼の稼ぎに頼って生活を送る女。
十和子は8年前に別れた男・黒崎のことが忘れられない。そんな中、黒崎のような雰囲気をもつ妻子ある男・水島に出会い、情事に溺れる。
そんな中、十和子のもとへ警察がやってきて「黒崎が行方不明だ」と告げる。十和子は自身に一心に愛を注ぐ陣治に対し、「黒崎を殺したのでは?」と不信感を抱き始めるようになる。
映画化について
映画は2017年10月28日に公開される。
十和子を演じるのは蒼井優さん。陣治は阿部サダヲさん。黒崎に竹野内豊さん、水島に松坂桃李さん。私は全員ぴったりだと思った。
とかく阿部サダヲ演じる陣治の激しすぎるルックスには驚く。出会ったら避けるだろう、そのぐらい汚らしく下品な顔つきをしている。
でも十和子は激しい嫌悪感を抱きながら、彼に依存して生きている。醜すぎる。
なぜ秋の夜長にすすめるのか
醜すぎる、とまで言うのに私はこの作品がとんでもなく好きで。
秋の夜長にすすめたい理由は、秋や冬の寒くなってくる季節にピッタリだと思えるほどの冷たさと暖かさがこの物語にはあると思っているから。
秋から冬という季節は、人恋しくなる。
春や夏に比べると秋や冬に読む物語は、単純なハッピーエンドじゃ物足りないと思うのだ。
どうせなら、心がぐっちゃんぐっちゃんにされる物語のほうがいい。
男女関係がおぞましく美しい
十和子が関係を結ぶ男達が浮かべているであろう表情を想像するとゾクゾクする。下品で、ゲスでクズな男ども。でも多分すごく綺麗なんだ。
純粋な男女交際とは言えないのに、それがすごくおぞましくて綺麗だと思ってしまう。
誰ひとり共感できないと思っていた。
でも、どこか共感してしまうような薄ら暗さがある。
映画のキャッチコピーに”共感度0%”とあるけれど、どこかそんな最低な奴らの恋愛を見つめていたい自分がいる。
好きと言えない人といること
十和子と暮らす陣治の不潔さ下品さは天下一品だ。
彼を心の奥底から「愛してる」と言える人はいないんじゃないかと思えるほどの下品な男だし、そんな彼に依存する十和子の気持ちはやっぱり分からない。
分からないけど、「好き」ではないけど一緒にいなきゃならない理由があるんだろうと思えて、なんだか心がもぞもぞするのだ。
陣治が向ける十和子への愛情を、十和子は嫌悪しながら絶対に一緒にいる。
この不思議な依存が、魅力的に思えて仕方ない。
おぞましいほどに愛おしいラスト
ネタバレしないので、内容には触れていないが、ラストで一気に心が持っていかれる。
共感なんてしたくないのに、愛おしいと思えてしまうことがおぞましい。そのぐらいインパクトを残すラストだと思う。
映像化も楽しみだけれども、文章で楽しむことを私はまず勧めたい。
あの活字の、線の細い明朝体でつむがれたラストを読むと、得体の知れないものに引きずり込まれたように、心にぽっかり穴が残るような感覚を味わえる。
眠れない秋の夜長に読むと、余計眠れなくなるかもしれないが、私はそれでもいいと思ってる。
冬になる前に読んでほしい
”共感度0%”には納得だし、誰ひとり気持ちのいい人間なんて出てこない小説だけれども、だからこそ人って愛おしいんだなと思える作品。
人恋しくなる季節になれば、切なくも心温まる作品に出会うことが増えると思う。
でも、そんなまっすぐなお話で温まる前に読んでほしい。ぽっかりと穴があく体験を、してみてもいいと思うのです。
では。
◆本日の一冊+α◆
賛否両論あるかもしれないけど、私はこのラストも好き。
今週のお題「読書の秋」